1話 永久凍土・雪華

06.珍道中


 こちらの反応はともかくとして、シルザエルの方は人の良さそうな笑みを浮かべた。

「それあよかった。どうです、一緒に。我々の目的は同じ、という訳ですし」
「一緒に? 得体の知れない貴様と行動しろと?」
「それは貴方方も同じ事。それに今日は天気があまり良くない。ひ弱なヒューマンを、戦闘向きの鬼人とセットにしておくのも心配です」
「貴様には関係の無い事だ」

 シキザキの不機嫌ゲージがMAXだ。このままではいつ噴火してもおかしくない。ハラハラと見守っていたが、このままでは大変危険だ。仕方無く、事の成り行きを見守るのではなく、この場において最も効率的な方法を思案する。
 正直、シルザエルの言葉を一から十まで信用する事は出来ない。それは恐らく、彼が本当に召喚士の件でこの場にいたとしても同じだろう。お互い、絶対的に信用をする事は無い。

 であれば、神使の彼は一体何をどうしたいのか? 答えは単純明快で、こちらの監視も兼ねて使えそうなら利用する。それが答えだ。勿論、それは逆も同じ。つまり、彼が本当に今し方口にした事を実行する為、この雪山にいるのであれば貴重な協力者になり得る。
 もし大嘘を吐いていた場合、彼の監視も出来るしやはりここは行動を共にするべきだろう。下手に申し出を突っぱねるのは推奨できる行為ではなさそうだ。

 一瞬で打算的な思考を巡らせた梔子は満を持して口を開く。今この場で一番困るのは、我慢の限界に達した鬼さんが神使に殴り掛ったり、襲いかかったりする事だ。

「私はシルザエルさんと一緒に行動するのは賛成ですけど」
「ハァ? とうとう頭までおかしくなったか、小娘」
「いやいや、私達やシルザエルさんの為に言ってるんですって。お互いの事をよく知らない訳ですし」

 あまりにも食い下がったせいか、眉間にこれでもかと皺を寄せたシキザキはややあって「好きにしろ」、とお決まりの台詞を吐いた。かなり面倒臭がりの性格が、梔子の自由を許したのだろう。
 これでもし、シルザエルに不審な動きが見られればすぐに発見出来る。正直、外から来た部外者である事は財団も神使も変わらないのだから当然の処置だ。

「ちなみに、私達は向こう側から来ましたけどシルザエルさんはどの辺を探索されたんですか?」
「そうですね、私は北の方角をざっと探索しました。このまま流れに沿って進むのはどうでしょうか」

 それはつまり、財団側から見れば進路を直角に変える事になる。ここは一旦、彼の言葉を信用したふりをし、示された進行方向へ進むのもありだ。シルザエルと別れた後に、残った北側を探索すれば彼がクロなのかシロなのかも分かる訳だし。
 打算的な事を思考しつつも、いつの間にか先頭切って歩いているシルザエルの後に続く。鬼さんが何か言いたげな顔をしているが、今考えている事を口に出して伝える事は出来ないので口出しはもう少しだけ待って欲しいものだ。

「ところで、シルザエルさん。私、神使っていう存在と初めて出会ったんですけど普段は何をしているんですか?」
「神使が、でしょうか? それとも私という単位でのお話でしょうか?」
「シルザエルさん、という単位でお願いします」
「そうですね……。基本的に暇な事はほぼ無いので、上の指示に従って全国を駆けずり回っていますよ」
「へぇ、大変そうですね」
「存在が始まった時からずっとそうですから、特に疑問を覚えた事や大変だと思った事もありませんが……。皆は一様にそう言いますね」

 何だか自分達とは根本からして違う生物のようだ。突っ込み始めるとキリが無さそうな程に。しかし、ここでずっと黙っていたシキザキが意地悪そうな顔で言葉を紡ぐ。

「小娘、神使の言う事なんて真に受けるなよ。神だの何だの、存在を証明出来た者は今まで一人として存在しない」
「おやおや、神使を名乗る私が神がおわす事の生き証人ですとも」
「何を馬鹿な。身内の言は証拠にならん」
「私が神の身内などと恐れ多い事は言えませんが、その理論で行くと既に神は存在しているも同然ではありませんか」
「そういう意味ではない、挙げ足を取るな」
「まあ、それはどっちでも良いですけど」

 仁義なき言い争いが幕を上げたので、適当にいなす。が、男2人の視線は「え? お前が言う?」と言わんばかりの厳しさを持っていた。仲裁の仕方に問題があったようだ。気を付けよう。