01.ルグレとオクルス
オーレリアが離脱したのを見届け、新たに増えた仕事に思考が引き戻される。残りのお仕事を片付ける気配を察知したのか、ルグレがにこりと微笑んだ。
「場所の大まかな位置特定に関しては、僕達にお任せ下さい」
「私も捜し物はどっちかと言うと得意だしな!」
オクルスも乗り気だ。彼女の実力はともかくとして、ルグレは確かに1個目の地下儀式場を見つけるという功績もある。信用に価しないのが玉に瑕だが、きっと次の儀式ポイントを見つけてくれる事だろう。
しかし、ここで何故かシキザキが難色を示した。
「虫が良すぎるな。一体何を企んでいる?」
「何かを企んでいる、という事はありませんよ。ただまあ……彼女の持つ、画集とやらにはそれなりに興味がありますが」
「何? あの中身を貴様等に解読出来るとは到底思えんがな」
「別に、梔子さんからそれを取り上げるつもりはありません。画集とは、彼女が持っている事に意味があるのでしょうし。実際、僕にもオクルスにもあの文字は読めませんよ」
「ますます訳の分からん奴等だな」
シキザキの眉間の皺は深くなるばかりだが、ルグレはニコニコと実体のない笑みを延々と浮かべている。彼等は見るからに相性が悪そうだ。
見かねたウエンディが半ば、無理矢理話題を変える。
「ルグレとオクルスにだけ任せる訳にはいかない。私達も手掛かりを探そう。5時間後、またここに集合でどうだ?」
「分かりました。私はまた鬼さんと一緒に行動すれば良いですか?」
「ああ。何か困った事があったら言ってくれ。梔子」
5時間後に集合と約束し、一同は散り散りに去って行った。
***
宿を出たオクルスは、相棒であるルグレの背を追っていた。淀みの無い足取りは確かに海水浴場を目指しているようだ。そんな彼の背中に声を掛ける。
「ねえ、海は調べたけど何も無かったよ」
「遊んでいたでしょう、貴方。随分と浮かれていたようで」
「いやだって、お前が海で遊ぶところとか想像出来ないし。だったら、私一人でもバカンスを楽しもうと思ったんだよ」
「事前に言ってくれれば、遊ぶ時間くらい取りましたよ、まったく……」
まあそれに、とルグレはその目を細める。
「入り江の辺り、不穏な魔力の流れを感じます。当たりだと良いのですが」
「ええ? そうかな。私には特に何も視えないけどな」
しかしルグレの足取りは変わらない。入り江を調べるまで、目的を変える事は無いだろう。長年の経験でそれを悟ったオクルスは早々に話題を変える。
「あのさ、ルグレ」
「何です?」
「面倒だから、梔子にはこっちの目的を話した方が良いんじゃないの? コソコソするの怠いんだけど」
「冗談。財団など信用出来ませんよ。状況によりますが、貴方の提案は最終手段です」
「そうか?」
「それに、あの小娘に話を告げたところで何かが出来る権限があるとは思えません。彼女もまた、ヒューマンに飼われたヒューマンである事に変わりはない。大層な保護者まで付けて、一人にしたがらないのが証拠だ」
「そんなに深い事情があるとは思えないけど。疑い深いのはお前の専売特許だから、仕方無いけどさ」
「それに彼女――梔子さん、もしかすると僕達以上に食わせ者かもしれませんよ。ええ」
「どうかな。何にも知らなさそうだけど」
一旦会話が途切れる。
ルグレと違い、別に梔子に何か違和感や裏のあるような何かを感じた事は無い。信用に価するかと言われればそうでもないのだが、こちらに対して実害がある存在かと言われるとそうではないだろう。
人畜無害、それが梔子に対する感情である。だからこそ、さっさとこちらの目的を話してしまいたかったのだが、相方は考え方が違うらしい。
「ルグレ、取り敢えずさ。例のカルト集団は財団に処理させるんだろ」
「そうですね。幸運にも財団の中でも手練れが集まっているようです。画集を保護する為でしょうが、こちらとしては運が良かったです」
「ついでに私の知りたい情報が、画集に載ってないものかね?」
「どうでしょう。僕もあの書物については、そういうものが存在する、という程度の知識しか持ち合わせていませんし」
「あーあ、だからさっさと目的を話して調べて貰えれば楽なのにさ」
「無理です。一時は不毛な協定を結ぶ他ありません、諦めて下さい」
「ま、人数多いの楽しいし、いいか」
潮風が鼻孔を擽る。そろそろ仕事の時間だな、とオクルスは雑談を打ち切った。やると言った以上、財団の彼女等に新鮮な情報を提供してやらなければなるまい。