09.護送任務
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流石にあの崩れた天井の下、シリアスな話をする訳にはいかなかったのでホテルに戻って来た。今日は――というか今回は、ホテルと現地を行き来してばかりだ。
さて、と至極真剣にウエンディが口を開く。彼女は人気の無いホテルのロビー、パーティ用のテーブルに、パーティには似付かわしくない品々を並べていた。言わずともがな、あの儀式が行われていた地下で押収した証拠品の数々だ。
梔子にはそれがガラクタにしか見えなかったが、どことなく気味の悪いオブジェである。召喚対象が混沌側、カオス側の神魔だからだろう。これを触媒にしようとしていたに違いない。
「ルグレ、オクルス。私達はこの証拠品を持ち帰らなければならないが、依存は無いだろうか?」
「依存はありません。が、万が一僕達がそれを持ち去られては困ると、そう言った場合はどうなるのでしょうか?」
「真っ当な方法で決める事になるだろう。無論、私達はこの品々を譲る気は毛頭無いが」
剣呑な雰囲気になりかけたが、吹っ掛けた側のルグレが「そうですか」、とあっさり流した事によって矛は納められた。何故、今ウエンディを煽ったのか。
しかし、そんなルグレの問題行動はどうしてだかオクルスへと飛び火した。
「貴方はどうですか、オクルス。不要と言うのであれば、無理に彼女等と敵対はしませんが」
「あ? 要らないよ、そんな生臭い物。貰ってどうするのさ」
「貴方がそう言うのであれば良いのです。僕も別にそんな悪趣味な物を収集する趣味はありませんから」
――一応、相方の意見を聞いたのか。
それにしては主体をオクルスに任せ過ぎた、選択権の丸投げとも言える行為だったが。無いとは思うが、彼女が「そのアイテム私も欲しい」などと宣ったら、ルグレはどうしたのだろう。疑問は尽きない。
ところで、と渦中の人物であるルグレは神妙そうに言葉を紡ぐ。
「押収物の行方はどうだっていいのですが、儀式が行われている場所がもう一カ所あります」
「おい、それを早く言え」
顔を引き攣らせたシキザキが全くのド正論を吐き出す。彼は何を落ち着いているのか。今にも神魔が召喚され、大勢の人々が被害を受ける可能性だってあるというのに。
顔を引き攣らせた我等がリーダー、ウエンディは眉間を押さえながら、しかし寛容に頷きを返した。
「分かった。ではそちらも処理しよう。しかし、意識力が不安定とは言えこちらには生身のヒューマンを捕らえている。ホテルに一人置いては行けない」
そうね、と同意を示したのはオーレリアだ。なお、彼女は片手に、先程の召喚士の生き残りを連れている。事情を知らない人達から見れば、意気消沈している友人の肩を抱いている友人の図に見えるのだから不思議だ。
そんな吸血鬼はすぐに精霊の言わんとする事を理解した。
「アタシはこの子を連れて、財団に戻るわ。神魔が召喚されない限り、追加の人員は要らないわね?」
「ああ、頼んだ。万が一の場合は追って連絡する。追加の人員を連れて戻ってくれ」
「え、じゃあオーレリアさん、離脱するんですか?」
自然な流れで拠点に戻ると言い出したオーレリアに対し、梔子は困惑の声を上げた。対し、彼女は蠱惑的な笑みを浮かべる。
「ごめんなさいね、梔子。お姉さんは一旦戻るけれど、アナタ達がピンチになったらすぐに駆け付けるわ。安心して頂戴ね」
「えー、寂しくなりますね」
「うふふ、上手い事言って。アナタのそういうところ、とっても好きよ」
告白されてしまった。確かにウエンディの言う通り、まだ神魔が召喚されていないのであれば今の状態は人数が多すぎる程だ。荷物も増えた事だし、オーレリアが離脱するのは順当な流れと言える。まさかシキザキに心神喪失状態の捕虜を運搬する能力があるとは思えない。
「ウエンディさん、引き続き私達は例の召喚士集団を追うって事で良いですか?」
「ああ。ルグレ、オクルス。君達も雇われている身だそうだな、もう少し付き合って貰おう」
「ええ、当然です。ご一緒できて光栄ですよ」
そう言って頼みの綱、ルグレは胡散臭くも爽やかな笑みを浮かべた。どうやら一時はこのメンバーで行動する事になりそうだ。