06.普段の生活について
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目的地へ向かう道すがら、梔子は新しく仲間に加わったゲストメンバーの2人と会話をしていた。会話は人を知る上での基本行動。彼等の事を正しく把握する為には、どんな些細な話題も必要不可欠なのだ。
「2人は、普段はどんな生活をしているんですか?」
「僕達ですか?」
唐突に話し掛けられたルグレはやや困惑した顔を見せたが、ややあって人の良さそうな笑みを浮かべる。
「傭兵業を営んでいます。貴方達程、腕が立つ訳ではありませんがね」
「まあ、お前って見た目かなりヒョロいもんな」
「どういう意味ですか、オクルス」
「軟弱……違うな、貧弱に見えるって事だよ」
クツクツとオクルスが笑う。絶世の美女だと言うのに、浮かべる悪戯っぽい笑みというギャップが変な癖になってしまいそうだ。彼女には人を惹き付ける無意識的な魅力があると思われる。
「そういえばオクルスさんって、私達と海で会いましたけど、一人で遊んでたんですか?」
「遊んでいた? 僕は彼女に例の召喚士集団を探すように手分けをしていたはずなのですが」
ルグレのジト目がオクルスに突き刺さる。彼女は悪びれもせず、肩を竦めてみせた。仕方無いだろと言わんばかりの雰囲気だ。
「海に行ったら水着で遊ぶに決まってるだろ。常識的に考えて」
「いいえ。僕達の役目は怪しい集団を追う事ですよ……。随分と海に行きたいと主張するので、怪しいと思っていました。何して遊んでたんですか」
「オクルスさんはビキニを着て、両手に海の家で買った食べ物を持ちつつ、聞き込みをしていました」
ええ、と心底引いたような顔をするルグレ。これは多分、素の表情だと思われる。
「かなりエンジョイしているようじゃないですか。何で僕も呼んでくれなかったんですか……」
「え? 何、ルグレ、来たかったの?」
「リゾート都市まで来ておいて、傭兵業にだけ精を出して帰るなんて馬鹿な事ありますか? 逆に聞きますけど」
「そうなの? 仕事終わったら帰るのかと思って。何だ、リゾート楽しむ時間あったのか」
――仲、良いなあ……。
ほっこりしてきた。もうこの2人が幸せならそれでいいのではないだろうか、そうとすら思う。
そうこうしている内に、喧噪を抜け、気付けば林付近にまで来ていた。賑やかな所から静かな所へ移動すると、静かさがより一層際立つ。
そんな林を見ていたシキザキが不意に目を細めた。
「神社での蜘蛛地獄を思い出す林だな」
「ああー、ありましたね。そんな事も」
「気味の悪い大蜘蛛だったな。叶うならば二度と見たくは無い事だ」
へえ、とルグレがその話題に興味を示す。
「新手の魔物ですか?」
「ああいえ、ウィーナーティオーの下僕っていう神魔の眷属がいたんですよ」
「眷属? 何だか強そうな響きですが、よく生きて戻れましたね」
「何だか色々あって。数もそんなにはいなかったし、思うにあれは神社から出ないように誘導する為に置かれたギミックですね」
どこでもないどこかにあったあの神社での出来事を思い出す。なかなかに意味深な空間だったが、いずれ意味を理解出来る日が来るのだろうか。
「ルグレの予想通り、地下に召喚士達は居るようだな。見渡したところ、人の気配は無い。吹き抜ける風も人の姿を捉えられないようだ」
不意にそう呟いたのはウエンディだった。やはり、風を司る精霊・シルフなだけあって自然に入ると心強い。都会の喧噪ではやや疲れた顔をしていたが、今は清々しい顔付きをしている。
そんな彼女の有力な情報に対し、オーレリアが僅かに首を傾げる。
「この広い範囲の地下、どうやって捜しましょうか? ルグレに魔力を辿って貰って、真上から地面を破壊するのが一番の近道かしらね」
「いや、出来れば召喚士は生け捕りにしたい。種族が全部ヒューマンであった場合、生き埋めにすると全滅して情報が引き出せない可能性が出て来る。可能であれば、入り口から侵入したい」
では、と話を聞いていたルグレが提案した。
「一旦、僕が魔力を辿り、召喚士達の真上を目指しましょう。そこからそう、離れていない所に出入り口があるのではないですか? 大都市の隣に地下道を広く掘る事など、土台無理な話です。必要最低限の部屋を造っているとみて良いでしょう」
「そうだな。ではルグレ、魔力の追跡を頼む」
「ええ。ここでしか僕の活躍出来る場所はありませんからね」
そう言ってルグレは淀みの無い足取りで突き進み始める。非常に有能だが、胡散臭さが玉に瑕だ。