05.ルグレの情報
果敢にもルグレに話を持ち掛けたのは、我等がまとめ役、ウエンディだった。相手に対する疑問などを微塵も感じさせない自然さで言葉を紡ぐ。
「初めまして。私はフラリス財団のウエンディだ。財団からの指示により、神魔召喚を阻止する為派遣されて来た」
「ええ、お話は伺っていますよ。何でも、僕達の目的は同じだとか。こちらとしても、貴方方のような手練れと行動出来るのであれば助かります」
「そうか。利害が一致しているようで何よりだ」
「ところで、僕の方は既に召喚士達の居場所を大まかに特定致しました」
――有能!
事態が大きく進展したのを感じ、梔子は心中で手を打つ。尤も、ルグレが嘘を吐いていなければの話になるが。
しかし、ウエンディの反応はあまり芳しくなかった。少しばかり困っているような、存在を持て余しているような。眉間に小さく皺を寄せている。
「気を悪くしないで欲しいが、貴方達の目的は何だろうか? 何故、召喚士を追っている?」
「ああいえ、警戒されるのも尤もです。僕達は都市運営の方々に雇われて、調査をしているだけです」
「そう、なのか……?」
「はい。本当は貴方方に全てお任せしてしまいたいのですが、残念な事に、既に前金を貰っていましてね。その分は働かなければなりません。見ての通り、あまり戦闘には精通していませんが報告の為に同伴させていただければ、と」
「そうだったか。仕事を横取りしてしまって悪かったな」
「いえいえ。むしろ助かりましたよ、財団と言うからには腕が立つのでしょう?」
2人の間に見えない火花が散るのが、見えた。多分、ルグレは嘘を吐いている。何の根拠も無い或いはただの勘と言うべき何かだが、裏を返せば本音を口にしているようには全く見えない。
一方でウエンディもまた口先だけの謝罪をした。明らかに悪いとは微塵も思っていない、形式上の謝罪。今回の仕事、最初は簡単そうに思えたが雲行きが怪しくなってきた。
不安に駆られつつ、隣で黙ってウエンディの決定を眺めているオーレリアに訊ねる。
「これ、どうなると思います?」
「同行させるでしょうね。断る理由も無ければ、野放しにするのも不安だわ。彼等」
「オクルスさんじゃなくて、ルグレさんが話の主導権を握っているんですね」
「そうね。彼女より、ずっとルグレの方が曲者みたいよ」
黙ってルグレとウエンディの会話を眺めているオクルスは口を挟む気配が無い。全ての決定権を彼に委ねているのが見て取れる。
一瞬だけルグレの処遇を考えていたウエンディが、ややあってオーレリアが言った通りの返答をする。
「同行を認めよう。都市運営に報告をしなくてよくなるのであれば、魅力的なお誘いだ。それに、目的は同じ」
「ありがとうございます。代わりと言ってはなんですが、実は僕は魔力の流れを辿るのが得意です。召喚士の召喚を行う為の魔力を辿るのは、難しい事ではありません」
「その言葉、信用している。では早速教えて貰おう。召喚士達はどこで召喚を行おうとしているのかを」
ええ、とルグレがどこか鷹揚に頷き、視線を明後日の方向へ向ける。
「場所はリゾート都市から少しだけ飛び出した外れの林です。恐らくこれは――地下、ではないでしょうか」
「地下か。人目に付きにくいと言えば、そうだな」
ここでずっと黙っていたシキザキが態とらしく得物をチャリ、と鳴らした。それは我慢の限界を告げる合図と同義だ。
「行き先が決まったのならば、出発するぞ。いつまで立ち話をするつもりだ」
「せかすね、鬼さん」
「チッ、いつまでも井戸端会議になぞ付き合っていられるか」
吐き捨てるようにそう言ったシキザキはいの一番にロビーを飛び出して行った。ずっと待っていたので鬱憤だとかストレスが溜まっていたのだろう。