04.協力者達
「で。貴様は何の用だ?」
「ああ、それなんだけどさ。私達もちょっと召喚を目論む、わるーい団体様を追ってる訳。で? お前等、何か知らないの?」
「口の利き方がなっていないようだな……」
ピキピキと顔を引き攣らせるシキザキを尻目に、正直に何も知らないと答えて良いのか迷う。彼女、オクルスは明らかに財団のメンバーではない。というか、こんな浮かれポンチの同僚がいたら困る。何だよ調査中にビキニって。
迷った結果、どうせ情報なんて欠片も持っていないので正しく答えてしまう事にした。下手に隠し事をすると追求されて面倒な事になるかもしれない。
「私達もまだ何も情報を掴めていないんです」
「ふーん、そっか……。財団なんていう大層な名前の割に、走り出しが遅いんだな。まあ、仕方無いか」
おい、とシキザキが更に人相の悪い顔になる。
「貴様は何故、召喚士を捜している?」
「……ちょっと、人に頼まれてて。そう、雇われてるんだよ」
――疑惑。
嘘を吐く人間の挙動にそっくりだ。梔子はゆっくりと目を細める。オクルスは斜め下を向いており、典型的なやましい事のある人間の挙動と言えるだろう。
――ちょっとこの人、キープしておきたいな……。ウエンディさんに報告しとこう。
そう判断するや否や、提案を口にする。
「オクルスさんも、私達と一緒に捜索しますか? 人数は多い方が早く見つかるかもしれないでしょう?」
「はぁ?」
文句を言おうとした鬼人の脇腹を小突く。驚いたのか、シキザキは黙ってしまった。刃物のように鋭い視線を送られつつ、オクルスの様子を伺う。
彼女は彼女で深く物事を考えていないのか、パッと笑みを浮かべた。やましい挙動とは裏腹に、それ以外の挙動は素直。隠し事が出来ない質なのだろう。
「お、いいな! 助かるわ」
「じゃあ、取り敢えず私達の仲間と合流しましょう。オクルスさんの事も紹介しないといけないし」
「それもそうだな。ところでさあ、私にももう一人連れがいるんだ。呼んで来ていい?」
「了解です。集合場所は――」
ホテルの場所と名前を告げる。分かった、とそう言ったオクルスは自らの格好を見下ろした。
「あ。着替えて行かないとマズいな。遊んでた事がバレる」
「小娘。この女を引き入れて良いのか? 使えなさそうだぞ」
失礼千万なシキザキの発言をものともせず、暴言を吐かれたオクルスは海の家へと消えて行った。恐らく着替えに行ったのだろう。
***
当然ながら連れを回収しに行ったオクルスより、梔子とシキザキが先にホテルロビーに辿り着いた。連絡を受けたウエンディとオーレリアも戻って来ている。海水浴場で出会ったゲストがいないのを良い事に、早々に海で起こった出来事を2人に説明した。
事の経緯を聞いたオーレリアがそうなの、と微笑む。
「2人、探索のメンバーが増えるって事ね。分かったわ」
一方で何の説明もされていないシキザキは不満顔だ。
「おい、結局何故あの使えなさそうな女を内に引き入れた?」
「それはそれ、明らかに挙動がおかしかったじゃないですか。目の届かない所で、色々厄介事を起こされたら面倒でしょう?」
「そこまで頭が回転しているヤツではないように見えるがな」
「連れの方はかなりの切れ者かもしれませんよ」
「その場合だと、捜索がより難航する可能性があるな。奴等の企みが分からん以上は」
構わない、とウエンディがあっさりそう言った。精霊殿はどうやらヒューマン娘の意見に全面同意らしい。
「邪魔をしてくるのならば、それはそれでいい。関係者を手元に置いているという事になる。今回はどうにも人が多すぎて、捜査が難航している、この機会は逃したくない」
などと話をしていると、ふらりとロビーにオクルスが現れた。隣には連れであろう、男性を連れている。こちらを見るや否や、オクルスは旧知の仲であるかのように気安く手を振った。
「遅くなった。梔子、そっちの2人がお前の仲間ってやつ?」
「ええ、はい。ウエンディさんとオーレリアさんです」
「さっきから思ってたけど、異種族間交流が盛んだな」
オクルスはクツクツと笑っている。嫌味を含んでいそうな言葉の後だったが、何故かカラッとした印象を植え付けられる不思議な笑顔だ。
オクルスに連れられて来た男は、一同を一瞥すると軽く会釈した。隣の相棒とは違い、少しばかり形式張ったイメージが湧き上がる。
「初めまして。ルグレと申します。お招きいただき、ありがとうございます」
少しだけゾッとするような心持ちになる男性だ、と端的にそう思った。表面上は丁寧な物腰だが、腹の底では何を考えているのか分からない、そんなタイプ。