1話 リゾート都市でのお仕事

02.リゾート都市


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 リゾート都市、というのは実際問題かなり遠かった。色々あって、夕方頃出発と相成ったのだが着いたのは明け方。午前3時。まだ外も真っ暗だし、正直、運転手以外はみんな寝てた。オーレリアのみが元気そうだったが。
 結局、午前3時から5時間程寝て、活動を開始したのは9時。何だかどっと疲れてしまった。

 ともあれ、日が昇ったリゾート都市・アリエットを前に梔子は呟く。

「本当にリゾートって感じしますね。というか、暑くないですか?」
「アリエットは常夏地帯だ。外界が冬の時は涼しいが、それ以外の季節はいつでも海に入れる猛暑の地だぞ」

 淡々としたウエンディの言葉に唸る。日本は四季折々の国だったので、年中夏なのは耐えられないかもしれない。とはいえ、リゾート都市に長居する予定は今の所は無い訳なのだが。
 それにしても、とホテルの前から見える景色に目を細めた。

「海、綺麗ですよね。今の時期も入れるんですか?」
「入れるわよ。ただ、今回はお仕事で来ているから海水浴をしている暇は無いかもしれないけれど」
「オーレリアさん、白い肌が焼けちゃいそうですね」
「アタシは吸血鬼だから、日焼けはしないわ。まあ、日差しもあまり好きでは無いから夜の海を泳ぐ方が好きだけれど」

 夜の海なんて得体の知れない場所を泳ぎたくは無いが、あまりにも当然のように吸血鬼の彼女がそう言うので、うっかりそうかもしれないなと取り留めの無い思考が脳裏を過ぎる。
 梔子、とウエンディに喚ばれて我に返った。

「そうだな、海水浴場にも人は集まる。海水浴に行かれるのは困るが、事情聴取として波打ち際へ行くのなら止めない」
「えっ、行って良いんですか! 海!」
「仕事もちゃんとしてくれるのなら」
「やった! わー、海に近付くのなんて何年ぶりだろう! 仕事頑張りまーす!!」

 俄然湧いて来たやる気。小躍りしたいような気分になっていると、スッとウエンディが仕事の話に戻った。彼女の切り替えが速い所は嫌いではない。

「集めて貰う情報は不審者についての情報と、異変についてだ。聞き方は君に任せる」
「了解!」
「シキザキ以外はまず聞き込みと行こうか」
「鬼さんはどうするんです?」
「聞き込みが苦手だからな。一般人に絡まれても対処出来ない可能性がある、梔子の面倒を見ていて貰う」

 ――それはつまり、私の面倒を見る係って事?
 そうとしか受け取れない言葉に、思わず鬼人の彼を見やる。案の定、来てからこっちずっと不機嫌そうな彼は更に不機嫌そうな顔をした。

「はあ? 俺に小娘の用心棒をしていろと?」
「ああ。バカンスで浮かれた連中に声を掛けられないよう、しっかりと見ていて欲しい」
「……正気か?」
「まさかとは思うが、お前情報収集の間は遊んでおくつもりか?」

 ぐうの音も出ない正論にシキザキが押し黙る。それもそうだ。4人居てその中の1人だけ遊ばせておく訳には行かないだろう。舌打ちした鬼さんは、それ以上の反論をしなかった。

「じゃあ、ウエンディ。アタシはショッピングモール辺りを見て来るわ」
「ああ。そうだな、正午頃にもう一度ホテルのロビーに集合だ」

 話が決まればそそくさと仕事へ向かうウエンディとオーレリア。その綺麗な背中を見送った梔子は、恐る恐るシキザキの方を振り返った。
 彼の事は嫌いでは無いが、一緒に仕事をしろと言われると躊躇うくらいには信用が無い。気付いたら居なくなっていそうだ。

 視線に気付いた彼はその眉間に深い皺を寄せた。

「何を突っ立っている。海水浴場で情報収集をするのではなかったのか」
「えー、急に居なくなったりしないで下さいよ。ここ、人が多そうだしはぐれたら二度と会えなさそう」
「そうなりたくなければ、貴様がはぐれないようにする事だな」
「あっ、待ってよ!」

 吐き捨てるようにそう言ったシキザキが一直線に海水浴場を目指して歩き出したので、慌ててその背を追う。このままでは、海に辿り着く前にはぐれる事になりかねない。全く協調性のないヤツだが、逆に痺れる。