3話 繁栄する町

09.作戦開始


 ***

 人には向き不向きというものがある。例えば今日の面子で言うならば、情報収集や裏の手引きが得意なのが梔子やトウキン。メンバー内の小さな論争を諫めるのがオーレリア。そして一同の意見を取り纏めるのがウエンディだ。
 その事実を噛み締めながら、シキザキは目を細める。
 この無駄に思考がバラけた面子を統率したい気持ちは欠片も無い。無いが、主導権を他人に握らせるという事は直接的な文句を言えなくなるという事に等しい。

 そうでなければ。この腹に一物抱えてそうな龍人と肩を並べて敵陣の真っ只中を歩いているはずがない。
 相変わらず何を考えているか分からない今日の相方、トウキンは物珍しげに周囲を見回している。不意に、そんな彼がこちらを向いた。

「おや、貴方の大好きな戦闘任務ではありませんか。何か不満でも? まさか新入りの面倒を見る方が好みでしたか」
「ほざけ。誰が好き好んで小娘の面倒を見ると言うのだ。だが、囮扱いされるのも癪だがな」
「どうしたいのですか、貴方」

 呆れたように肩を竦めるトウキンの言葉を無視する。
 思考は専ら、梔子が口にした神魔の強制送還についてだ。あまり信用はしていないが、本当に出来るのであれば確かに使える。現場に居合わせるのが一番だったが、あの話の流れ的には無理だった。
 であれば、後で結果だけを聞くしかないか――

「目的地に到着しましたねえ」
「……市場か」

 見れば、住人モドキ達が忙しなく行き交っている。特に商いをしている訳でも無いだろうに、何をしているのか。頭が悪いと聞いていたので、作業効率も悪いのかも知れない。
 ――これが全て……神魔の眷属か。
 この人が見るには大きい町の全てが神魔そのもの。成る程確かにスケールが違う。召喚された神魔というのは、それが何であれ厄介極まりないようだ。

 しかし、この行き交う兎達が神社で会ったウィーナーティオーの下僕よりずっと弱いのは見れば分かる。数が多いだけだ。面倒ではあるが堅実に戦闘していれば、押し負ける事は無いはず。
 攻略法を考えていると、懐中時計を取り出したトウキンがぽつりと呟く。

「時間ですね、始めましょうか」
「……貴様、遠慮と容赦が無いな」

 始める、そう宣言した途端、建物を破壊する為の対建造物用の大規模魔法を編み始めたトウキンに顔を引き攣らせる。よくもまあ、形そのものは通常のヒューマンと変わらない相手に対物用の魔法を使おうと思えるものだ。
 軽蔑の視線をひしひしと感じ取ったのか、今からテロ行為にも似た行動を取ろうとしているトウキンはゾッとするような薄い笑みを浮かべる。

「何を馬鹿な。相手はただの化け物ですよ。気にするような事では無いでしょう」

 ――……だからコイツは嫌いなんだ。
 溜息を吐いたシキザキは腰の得物を抜き放った。

 ***

「うわっ! 何だか凄い物音がしましたね!」

 位置的には背後から非常に破壊的な音が響いて来た為、梔子はその足を止めた。近くは無いのだが、それでも非常に大きな音だった。やや近くで観た花火くらいの音と言えばそれが近い。
 その音にいち早く反応したのは町の『住人』達だった。機械のようにピタリと足を止め、こぞって音がした方を向く。完全に指示待ちの姿勢なのだろう。その場から微動だにしない。

 それを観察していたオーレリアが慎重に呟く。

「どうやら向こうも始めたみたいね。アタシ達も行きましょうか」
「時間が勿体ないな。移動中に、梔子、君の設定画集による強制送還についての段取りを確認しよう。失敗は許されない」

 ウエンディの言葉に小さく頷いた。そう、彼女の言う通り相手がカミサマである以上、失敗は即ち死に直結する。慎重且つ早急に事を進める必要があるだろう。
 梔子は素早く脳内の設定画集のページを捲る。本番の時は明らかに通常の人間には覚えられない文字量のあるそれを見ながら進める事にはなるが、今は移動中。段取りくらいは記憶せねば。

「まず、強制送還には早口で読み上げても3分は掛かる呪文みたいなものの詠唱が必要です。その間の時間は、ウエンディさん達に稼いで貰う必要があります」
「ええ、アタシ達に任せて頂戴。可愛い新入りには指一本すら触れさせないわ」
「ありがとうございます」

 それなんだが、とウエンディが真面目な顔で切り出す。

「君は、送還魔法の詠唱中に別の魔法――つまりは防御魔法を張ったまま、作業は可能だろうか? それによって、私達の立ち回り方法が変わる」
「多分、出来ると思います。ただ詠唱中は別の文言を挟めないので、消えてしまった後は張り直しが出来ないでしょうね」
「了解。念の為、詠唱を始める前に防御魔法の使用を頼む。後は私達で調整をしよう」