3話 繁栄する町

03.梔子の聞き込み調査


 ***

 ――困ったわ。この面子で聞き込み調査なんて出来るのかしら。
 資料調査へ行ったウエンディとトウキンの背を見送りながら、オーレリアは脳内で頭を抱えていた。

 完全にトウキンに荷物になりそうなメンバーを全て押しつけられた。こんな町で神魔に関する資料が見つかるとは思えないので、実質あの2人はサボりのようなものだ。当然、ウエンディは何か成果を上げるつもりだろうがトウキンはその限りでは無い。
 第一、事、調査に関してシキザキは完全なるお荷物だ。相手を脅して情報を吐かせるのならば輝けるが、一般人に声を掛けさせては最悪自警団を呼ばれかねない。
 梔子は社交性こそありそうだが、それが聞き込み調査に活かせるのかは不明だ。それに、彼女は何故かシキザキを煽る癖がある。喧嘩にならないか端的に心配だ。

「オーレリアさん?」
「ええ、どうしたのかしら。梔子」
「どんな人に声を掛けて情報収集しますか? 特に指定無し?」
「そうね。数打ちゃ当たる戦法かしら」
「チッ、クソ面倒臭いな」

 本当に面倒臭そうにシキザキがそう言う。調査において自身が出る幕など無いと思っているのか、彼から積極性は感じなかった。
 しかし、意外にも梔子は積極性を持ち合わせた社交家だった。

「じゃあ、まずはあの人に声を掛けてみますね」
「え、ちょ――」

 客待ちをしている出店の一つへ足取りも軽く向かって行った梔子は、店番をしていた中年の女性に声を掛ける。

「すいませーん、ちょっと良いですか」
「あらあら、いらっしゃいませ」
「少しお伺いしたい事がありまして。私達、地域で事件なんかが起こっていないか調査をしているのですが、ご協力をお願いしてもいいでしょうか?」
「礼儀正しい子ね、おばさんで良ければ何でも聞いてちょうだい」
「ありがとうございます。最近、何か変わった事とかありませんでしたか? どんな些細な事でも結構なんですけど」

 考える素振りを見せた女性はややあって、首を横に振った。

「うーん、特に思い付かないわね。平和な町よ。ここは」
「へえ、そうなんですか! じゃあ、怪しい人とかは見掛けませんでしたか? ほら、最近何かと物騒ですからね」
「見掛けてないねぇ、やっぱり平和そのものよ」
「そうなんですか、それは良かったです」
「他に聞く事はあるかい?」
「いえ! ご協力ありがとうございました」

 ――まだ、そんなに被害は広がっていないのかしら。実は召喚もされていない?
 オーレリアの考察を余所に、梔子はその後も次から次へと目に付いた人達に声を掛けていった。恐ろしいコミュニケーション能力だ。

 聞き込み開始から1時間半が経過。かなりの人数に声を掛けたようだったが、誰も怪しい現象が起こっていたり人物を見た者は居なかった。

「ありがとう、梔子。アナタは本当に社交性があるわね」
「いえいえ。この程度、朝飯前ってやつですよ」
「けれど、どうも外れのようね。みんな何も知らないみたい」

 そんな事無いと思いますよ、と梔子は薄く笑みを浮かべる。真実を暴く事を楽しんでいるような目に、一瞬だけ視界を奪われた。

「本当に焦臭い町ですよね、ここ。ゾクゾクしてきました」

 ***

「無いな。そもそも資料の数が少ない」

 町にある資料倉庫へ許可を得て入り込んでいたウエンディはそう呟いた。フラリス財団からの申請であれば資料を覗くなとは言われないと思っていたが、あっさり入れて貰えたので有用な資料を隠されてしまった可能性もある。
 見た所、本棚や資料間の不自然な隙間などは見当たらないが。

 先程の独り言に対し、一拍おいてトウキンから返事が戻って来る。

「小さな町ですからね。出来てそう年数が経っている訳でも無い。完全に無駄足でしたねえ」
「お前、ある程度予想していただろう……」
「いえいえ。まさかそんな事は。この調子では、聞き込み組も大して情報を持っていないでしょうな」

 噂をすればなんとやら。聞き込み調査に行っていたオーレリアがふらりと姿を現した。

「お疲れ様。どう? 何かめぼしい資料はあったかしら?」
「オーレリアか、お疲れ様。他2人はどうした?」
「外で待っているわ。宿も取っているから、一度場所を移しましょう。梔子が色々と聞き込みしてくれたお陰で、何か分かったみたいだから」
「うん? そうか、分かった」

 持っていた資料を棚に戻し、オーレリアの背中に続いた。