2話 フラリス財団の愉快な仲間達

09.未設定のページ


 一方で、教育係とは名ばかり。最終的には野放し状態で梔子を放置したトウキンが、教え子に話し掛ける。

「画集を読む込む時間などありませんでしたが、なかなかどうして上手く魔法を使いこなしますね。梔子さん。これ、拾っておきましたよ」

 画集を手渡しながら、トウキンが胡散臭い笑みを浮かべた。対して、梔子は先程の問いの答えを口にする。

「有り難うございます。設定画集については仕事だったし、やる事がそれしか無かったので読み込んでたんですよね。そこそこたくさん魔法の種類もあるし。あ、でも、私が居た世界では魔法なんてものは無かったから威力の程は使ってみないと分からない面もありました」
「手探りだったという事ですね」
「文字と現実には乖離がありますから」

 確かにそうですね、とトウキンが同意を見せたタイミングと全く同時。鍛錬場にふらりとノーマンが現れた。

「お疲れ様です。今、少し良いですか?」
「どうされましたか、ノーマン殿」

 おや、とトウキンが緩く首を傾げる。ノーマンはにこやかな笑みを浮かべたまま、即座に用件を切り出した。

「梔子の個室を手配しました。生活に必要な品は一通り揃ってはいますが、他に欲しい家具などがあるのであれば、発注する必要があります。一度、部屋を確認して貰っても良いですか?」
「ええ、了解です。梔子は私が連れて行きましょう」
「ウエンディ、勿論あたしも行くわよ。楽しそうじゃない、お部屋の改造って」

 面倒を見ろと言われた手前、個室にまで案内するのが筋だろう。そういう意味も込めての申し出だったが、オーレリアが楽しげに同行を申し出て来た。断る理由も無いので、頷きを一つ返す。

「では、行きましょうか。トウキン、貴方はどうしますか?」
「私はゆるりと自室で休憩でも致しましょう。どうぞ、楽しんで」

 さらっとそう告げると、そそくさとトウキンは出て行ってしまった。彼はこういう人物である。
 個室がある方へ足を進めながら、不意にノーマンが呟く。

「ああ、そういえば。急なのですが、明日から大きな任務が入るかもしれません」
「大きな任務、ですか?」
「ええ。急に入った任務なので、今宿舎に居るメンバーしかいないのですよ。梔子、君の働きには期待しています」
「あれっ、私も行くんですか!?」

 ぎょっとしたように梔子が聞き返す。彼女の反応は真っ当だ。しかし、無情にもノーマンは笑顔で「そうなりますね」、とだけ返事をする。更には次の話題へと話の流れを移行させてしまった。

「そうだ、梔子。貴方に渡す物があります。これなのですが、どうですか? 見覚えはありませんか?」

 破れたページの1枚のような物を梔子へと手渡すノーマン。それを見たヒューマンの彼女は僅かに目を見開いた。

「あ、これ……未設定ページじゃないですか! あれ、じゃあ画集の中のこのページだけ抜けている……?」

 ぶつぶつと呟いた梔子は鞄から設定画集を引き摺り出し、ページを確認した。そのまま頷く。

「やっぱり。ページが多すぎるから抜けてる事に気付かなかったけれど、これ、私の画集にあったページの1枚です。時間が足りなくて、イラストと名前しか書かれてない」
「やはりそうでしたか。このページですが、財団で保管していた物です。重要保管倉庫ではない倉庫に入っていたので、持って来ました。持ち主に返しましょう」

 あまりにもあっさり財団の所有物を来たばかりの梔子へ渡してしまった事に対し、ウエンディは用心深く口を開いた。あまりリーダー様の言う事に異を唱えたくはないが、これは見過ごせない。

「そのように、勝手な事をして良いのでしょうか?」
「ははは、そうですねえ」

 笑って誤魔化されてしまった。