05.脱出方法の考察
そもそも、と不機嫌そうにシキザキが口を開く。
「小娘、貴様は鳥居付近で背後から声を掛けられたとそう言ったが、貴様に声を掛けたのは何者だった?」
「振り返れなかったから、分からないなあ……。人間味が薄そうな声だったとしか」
「アテにならぬ奴よ」
「でもまあ、知っている人では無かったかな」
ここを突いても何も出ないと思ったのか、ウエンディが速やかに話題を変える。
「残り2つの道具を集めれば出られる、という事だが心当たりは? 残念ながら、君のそれに賭けるしか無いのだが」
「無いですね。ただ、『あと2つ』って言い方をされたんですよ。私が道中で拾ったのはこの設定画集だけなので、正確には3つの道具を集めろという事かもしれません」
「成る程。それも道理だな。であれば、君の私物をあと2つ探すという事だろうか」
「現段階ではそれが一番現実的だと思います」
神妙そうな顔つきのノーマンが口を開く。
「私達も3人で鳥居の前までは行きました。ただ、そこから身動きが取れなかったのでバラバラに情報収集へ転じていた訳ですが。つまり、我々は一通りこの近辺を探索している事になります。梔子、君の姿を見かける事は無かったけれど」
「ミスター、では私達と梔子は別々に来たという事ですか?」
「そうなりますね。時系列順に並べてみると、やはり梔子が最後にここへ到着したという説が有力だ」
おい、と苛立ったようにシキザキが声を上げる。
「結局どうする。突っ立っていても何も始まらんぞ」
「そうですね、まあ、恐らくは彼女の必要な道具をあと2つ集めるのが一番手っ取り早い気がします。この規模だ、神魔の仕業で間違いないでしょうし。そして、そうであればこの意味不明な要求も頷ける」
了解とウエンディが短く応じ、鋼のような面立ちを梔子へと向けた。
「君も、こんな事に巻き込まれて災難だったな」
「ああいえ、まあ、何にせよ歩き回って探索したりするのは嫌いじゃ無いので」
「頼もしい事だ。聞き分けが良くて助かる」
「えーっと、今からはもう一度神社の中を見て回るって事で良いですか? 私がこの場所に追加されたり、時間が経つ事に何か変化が起きているみたいですし」
「そうなるな」
全員で再度、神社内部の探索。そう取り決めたと思われたが、その群れからシキザキが離脱した。進行方向とは逆方向へ足を向ける。
「鬼さん?」
「付き合ってられんな。子供の面倒を見るのなど面倒この上無い、適当に探索している。何か進展したのならば呼べ」
「あ、了解でーす」
他の人が止めるかに思われたが、誰も彼の背に声を掛けなかったので快く見送る。彼の気質からして、自分主体の探索になど参加しないだろう事は流石に理解出来た。
特に気にしてはいなかったが、意外にも面倒見の良いウエンディからフォローの言葉が入る。
「梔子、気にする事は無い。奴は団体行動が向かないだけだ」
「ああいえ。苛々しているみたいだし、早く何か手掛かりが見つかると良いですね」
***
「では、十字路に戻って来た訳ですが、どこまで探索しましたか?」
ノーマンの言葉に対し、梔子は返事を窮した。
というのも、自分が境内から縁日を横目に鳥居まで進んだ時、分かれ道などそもそも存在していなかったからだ。まさに一本道、それ以外の道など絶対に無かったと断言出来る。
しかし、目の前に広がる光景はどうだろうか。神社が一本道であるはずが無いだろうと言わんばかりに3本の道が延びている。行動範囲が一気に増えてしまった。
「すいません、左右に道がある事すら、今知りました」
「そうでしたか。では、まずは左の道へ。右側の道は、先程シキザキが曲がっていくのを見ましたから。彼も馬鹿ではないでしょうし、あちら側に何かあれば押さえておいてくれるはずです」
左側の道へ行く、と決めたからかウエンディが補足するように口を開く。
「そちらの道ですが、梔子が持っていた設定画集に記載のある言語と似たような言語で書かれたメモがありました。まずはそちらに行ってみてはどうでしょうか」
「それもそうですね。梔子、それで良いですか?」
「了解です」
道を曲がり、綿菓子の屋台を横目に見ながら進む。やはり、さっきまでこんな道は無かった。大きな道なのだ、まさか見間違えるという事も無いだろう。
「こんな事、どうやったら出来るんでしょうね。4人も誘拐して、神社に閉じ込めるなんて」
――人間の所業じゃないな、とは言わないでおいた。それは盛大なブーメランに他ならないからだ。
呟きにも似た言葉を拾ってくれたのはノーマンその人だった。
「間違いなく神魔の仕業でしょうね。こんな大規模且つ意味不明な事をしたがるのは、奴等以外にあり得ない。彼等の領域であれば、意味不明、理解不能な事なんて日常茶飯事ですよ」
さっきからちょこちょこ話に出て来る『神魔』とは何なのだろうか。言葉のニュアンス的に何だか凄いものである事は薄々気付いているのだが。