1話 遊戯の支配人とお遊び

03.鬼さんフレンズ


 しかし、その隠しもしない素直な感情には好感が持てる。下手に隠し立てされるより、警戒している事を前面に押し出されている方が安心感があるからかもしれない。

 とはいえやっと発見した第一村人。このままはい、さようならと別れる訳にはいかない。どうにか協力してここから脱出する方法を探す方向へと持って行きたい次第だ。
 そう考えた時、鳥居の前で聞いた声に関しては脱出の糸口になるのではないかと思い至る。先程の起こった事件を特に聞かれている訳では無いが説明してみた。脱出に必要な道具があと2つ必要である事などを。
 一連の流れを聞いた鬼さんの顔がピキッと引き攣る。

「貴様、脱出だ何だと言うのならそれを早く言え!」
「いやだって、あなた、近付いたら取って食いそうな威圧感があるし……」
「言い訳は良い!」

 またも舌打ちした彼はくるりと背を向けて歩き出した。慌ててその大きすぎる背中を追う。付いてくるなとは言われなかった。

「鬼さん足が速いよ、コンパスが違うんだからもっとゆっくり歩いて欲しいな」
「やかましい」
「というか、鬼さん一人? 他にお友達とか一緒じゃないの?」
「他に2人居たが固まっていても仕方ないので散り散りに散策している」

 ――メンタル強いなあ。
 よくこの意味不明空間で単独行動をしようという結論に至ったものだ。絶対に1人になっちゃ駄目な場所だろう、ここは。
 同時に彼と同じ思考回路の人達があと2人居るという事実にも驚愕する。精神力が可笑しい。

 というか、これはどこへ向かっているのだろうか。ゆっくり歩いて欲しいと遠回しにお願いしたが、彼の足取りは変わらず。梔子にとってみれば小走りくらいの速さで移動を続けている。
 これだけ黙々と足を動かしているのだ。目的地があるのだろうが、既に度重なる質問のせいで彼の苛々は臨界に達している。これ以上の無駄話には付き合ってくれなさそうだ。

 ***

 そのまま、3分程歩いただろうか。変わらず屋台が続くだけの、寂しい縁日に人の姿を発見した。
 歩く速度が速度なので、その人影はすぐに詳細が分かるサイズ感になる。
 鬼さんと違って見た目は普通の人達。和風感は全く無く、外国からの観光客かのようにはっきりと日本人顔ではない人達だ。

 間違いなく彼のお仲間だろう。随分とグローバルな面子だ。そして目的地も仲間2人の居る場所だったらしく、歩く速度が急速に落ちる。
 こちらに気付いた仲間の男性があれ? と首を傾げた。

「急に戻って来たと思ったら、どうしたんですか、その子は。まさか……誘拐?」
「ほざけ。鳥居の前辺りで拾った」
「拾った」

 オウム返しに呟いた男がこちらに視線を向けてくる。どうすればいいのか分からなかったので、軽くお辞儀したら律儀にお辞儀を返されてしまった。
 相手が自分を観察しているのを良いことに、梔子もまた男を観察する。
 世にも珍しいプラチナブロンドを肩口より少し上まで伸ばした髪。真っ黒ではなく、光彩の中に赤が混じっているような不思議な瞳。ただし、左目は伸びた髪で覆われていてよく見えない。目鼻立ちは完全に神社の風景にはそぐわない印象が強かった。

 そんな中、鬼さんが淡々と出会った時の状況と、梔子が伝達した事項をそのまま彼へと伝達した。2人が話始めたのを尻目に、もう1人、さっきから黙っている女性の方を見やる。
 バッチリ目があった。

 彼女に至っては通常の人間が持たないような色彩の持ち主だ。
 深緑色の短髪に同じ色の双眸。すらりと伸びた四肢に、女性にしては高めの身長。肌は病的なまでに白い。クールビューティーな女性と言えばそれが一番当て嵌まりそうだ。凍ったように動かない表情からは感情が推し量れず、コミュニケーションに難儀しそうである。

 会話も無く彼女と見つめ合っている間に、後ろの男2人は話に決着したらしい。相変わらずオブラートに包む事を知らないハッキリとした鬼さんの言葉が耳朶を打つ。

「とにかく面倒だ、小娘は貴様等でどうにかしろ」
「性急な話に驚きを隠せませんが、まあ、良いでしょう。貴方に非力な子供を任せるのなど、不安過ぎる」

 仲悪そうな会話が終了したと同時、男がこちらを向いた。愛想の良い笑みを浮かべており、警戒しなくて良い、というゼスチャーも一緒に付いている。保護者然とした人物らしい。

「お待たせ致しました。私はノーマン・チャイルド。彼等の上司のようなものです、よろしく」
「はい、よろしくお願いします。神薙梔子です」
「ええ、礼儀正しい良い子ですね。えーっと、彼――シキザキの説明ではちょっと分かり辛かった所をもう一度確認しても? ああ、言うまでもなく私もそこの彼女も脱出方法を探していまして」
「実は私も良く分かんない場所に迷い込んでしまって。取り敢えず、今まで起きた事だけでも説明出来るよう、頑張ります」
「助かりますよ」

 鬼さん――シキザキと言うらしい――の説明が雑だったせいか、結局、鳥居の前で起きた事を全て話して聞かせる事になってしまった。
 しかしノーマンと名乗った彼は頭がかなり切れるらしく、自分の要領を得ない説明でも、かなりのスピードで理解を示してくれた。何て良い人なんだろう。