05.新たな情報
ともあれ、まずは情報収集を始めなければ。やってみたら意外と上手く行くかもしれない。
「あの、結芽さん。怪異をどうにかしなきゃいけないので、色々と質問しても良いですか?」
探りを入れるのは後が恐いので、もういっそストレートにそう言ってみた。人を欺すのは苦手だ。
が、どうやらその判断は正しかったらしい。穏やかな顔をした結芽は一つ頷く。
「それがあなたの役に立つのなら、幾らでも答えるわ」
「ご、ご協力どうも。じゃあまず、夢ではなく、現実の方で何か変な事とかありませんでしたか?」
「そうね……。ベッドで眠る日々だから、特に何も無かったわ」
「すいません、デリケートな事を聞いてしまって」
酷くリアクションしにくい事を答えられてしまった。そういえば彼女の生活スタイルがとても元気な人間と同じものだとは考えられない。浅慮だった、申し訳無い。
そういえば、彼女は氷雨の妹――という設定だったはず。彼の事はどう思っているのだろうか。
「氷雨さんの妹さんでしたよね? 最近、お兄さんはどうしているんですか? うちに異動して来たし、会える回数も増えて良い感じだと思いますけど」
「あの人と私は兄妹ではないし、俗に言う『兄妹のように育った』という意味も一切無いわ。他人ね」
「え」
「何故、そういう事にされたのか私は詳しい事は知らないの。力になれないでごめんなさいね」
2人が兄妹では無い、というのに驚きは無い。驚いたのはその事実をあっさり樋川結芽自身が暴露した事だ。重要な情報だと思うのだが、そんな簡単に口にしていいものだったのか。
「他人……。でも結芽さんと氷雨さんって、割とセンターで会ってますよね」
「そうね。けれど、私にとっては機関の人という異常の意味合いは無いわ」
「どんなお話をするんですか?」
「事務的な話、ね。決められた項目を確認しに来ているようよ」
――確かに、氷雨さんって見舞いとかするような人じゃ無さそうだし。
切り替えて行こう。ミソギは頭を振って、氷雨の事を一旦忘れると次の質問へと移った。結芽が協力的な姿勢を取っている内に話を聞き出してしまいたい。
「その他の人とはお話したりしないんですか? 機関以外の人……ご両親とか」
「親とは会っていないわね。ただ……そういえば、ホラー作家の識条美代さん、っていう人とは最近話をしたと思う」
「ホラー作家? 私、本をあまり読まないんで知らないんですけど、有名な作家さんなんですかね?」
「私もホラー小説は読まないから分からないわ」
「え、じゃあ何の話をしていたんですか?」
そうね、とここで初めて結芽は考える素振りを見せた。が、ややあって極上の微笑みを浮かべる。
「ネタ集めだとか言って、私の事について色々と聞いてきたわ。今のミソギさんみたいに、ね」
「え、あ」
「怖い夢の話、センターで起きる怪奇現象……。こんなものを知りたがるなんて、変わった人よね」
「あー、いるんですね、そういう人」
言いながらアプリを弄り、今の会話内容を挙げる。文章を推敲している暇は無い。とにかく手元を出来るだけ見ず、早急に箇条書きのように文字を連ねるだけだ。
「けれど、私は識条さんの事嫌いじゃないわ」
「えーっと、それはまた、どうして?」
「彼女が私に教えてくれた事があるの」
うっとりと、恍惚とした顔で結芽は淡々と言葉を紡ぐ。今まさに夢の中にいると言うのに、夢を視ているかのように感じられた。
「彼女曰く――祈り、念じる行為は強い力を持っていて……時に現実を歪める程の力になる事もあるらしいわ」
「それの何がそんなに……」
「ベッドの上でしか生活が出来ない私に、夢と希望を与えてくれる言葉だもの。私はとてもこの言葉を気に入っているわ」
――識条美代……。誰かに調べて貰おう、この人胡散臭過ぎるもん。
キーパーソンである事は確かだ。手が空いている誰かに調べて貰って損は無いだろう。そう考え、ミソギは早急に調査依頼をアプリで行った。これで、手の空いている白札の誰かが確認してくれるはずだ。彼等は怪異を追うより、何か調べ物をする方が得意な事だし。