2.





 国主たる鳳黎命の執務室にはすでに神楽木透栖と雨久花明月の両名が揃っていた。部屋の主は我が物顔で椅子に座っている。
 招集された面子を見て、すぐに仕事だと理解。それも、子供連中には任せられない、それなりに大事な。明月も緊張しきった面持ちでちらちらと部屋に集結する一同を見ている。

「どーも、黎命殿。仕事ですかね?」
「あぁ、そうだとも。そう難しい仕事ではないが、霧氷達に任せるにはちと荷が重いだろう」
「構いませんって。それで、俺達はどこへ行けばいいんですか?」

 それなのだが、と黎命は右手を振った。

「全員行かせるつもりはない。翠燈との小競り合いよ。誰か一人行かせたいが、さて、誰が行く?」

 それはつまり、軍を率いて小さな領土争いを収めて来いという旨の仕事だった。大したことのない仕事なのだが、如何せん面倒臭い。誰もが行きたくないだろうが、幸か不幸かこの難から逃れる事が出来る人間がいた。

「あの・・・黎命殿。僕は軍師なのですが」
「うむ。お前を呼んだ理由は別だ。遠征の策を用意してもらう」

 軍師、明月。彼が遠征に一人で行くなど自殺行為だ。決して彼自身の戦闘能力が低いわけではないが、それでも将として一人きりで出陣させるには役者不足。

「おい、詳しい話を聞かせろ。俺は立て込んでいる」
「防衛線よ。翠燈が我が領に侵入しておる。少数のようだからな、誰か一人を派遣したい」
「適当過ぎるだろう。不確定要素が多い」
「やかましいわ」

 どのくらいで城へ帰って来れるかは知らんが、と透栖が溜息を吐く。それは呆れているようでもあり、この件に関しては関わりたくないとでも言いたげだ。

「俺は明日からいない。斎火、頼めるか?」
「はぁ?俺かよ・・・あー、んじゃあ行って来ます。黎命殿、ちゃんと紫水嬢の面倒は見ててくださいよ」
「う、うむ・・・主に言われるとこう、胸が抉られるような気分よな」
「それは俺が言うからじゃなくて図星だからじゃないですか。甘音殿に任せ過ぎですよ」

 ――この仕事、何事も無く順調に進めば楽だ。
 が、そう上手くいくのならば苦労という単語はこの世に誕生しなかった事だろう。