2.





 東雲紫水が鳳黎命の養子になったという前代未聞の事件から数日が経った。あれから何の事故も起きず、平和な時間が過ぎて行っている。
 娘が3人もいたからか、飯桐斎火の子供の扱いは手慣れたもので、すぐに紫水を手懐けた彼は現在、彼女と遊んでいた――遊んであげていた。甘音は霧氷に捕まったせいか、ここにはいない。

「紫水嬢は綾取り得意なんだなぁ」
「甘音とこうやってよく遊んでいたの」
「あぁ・・・糸の扱いが得意らしいね、あいつ」

 黎命の話を聞いていた斎火はその事実がすんなり呑み込めた。
 一瞬意識を外した途端、糸があり得ないような状態で指に絡みつく。失敗してしまったらしい事は一目瞭然だった。が、紫水に怒った様子は見られない。
 それどころか、唐突に部屋の戸を見た。

「誰か来るわ」
「んー?甘音殿か?あー、いや待てよ、俺が仕事かもしんね」
「甘音じゃないわ」

 そう呟いた途端、戸が開け放たれた。立っているのは名前も知らない文官で素早く一礼した後、用件を言いつけた。

「黎命様がお呼びです、飯桐殿」
「あ、やっぱ仕事か。仕方ねぇ。今日はここまでだぜ、じゃあな、紫水」
「うん。さようなら」
「おう!あ、あんた。黎命殿はどこに?」

 部屋に一人残される紫水は気の毒だが、そろそろ彼女の侍女である甘音が帰って来る頃だろう。そう思いながら、伝令の文官の後に続き戸を閉めた。