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紫水を養子にする、という報告を宴会の席でしたところ、返ってきた反応は実に薄かった。猛反対するであろう神楽木透栖はすでに執務室で黙らせたし、斎火は普通に歓迎する気のようだ。
騒ぐだろうと思われた霧氷はというと甘音と何やら話し込んでいる。彼女を気に入ったらしい事は言わずとも分かる話だった。
――が、本当に大変だったのは黎命の話が終わった後である。
甘音が霧氷に捕まってしまったので、黎命のもとにいた紫水。そこへふらりと現れたのは透栖だった。
「おい、貴様」
「私の事を言っているの?」
「あぁそうだ。まさか、謀反なんぞ企んでいないだろうな」
「なに、それ。お菓子?」
「阿呆が。反乱の事だ。まさか我らに刃を向けたり――」
「ねぇ、あの人、ちょっと変なの」
耐えかねたのか、紫水が黎命へ泣きつく。とはいっても無表情のままだったが。一部始終を見ていた黎命はあきれ顔で溜息を吐いた。
「お父様と呼んでよいぞ、紫水」
「おい黎命。貴様変なところで変なこだわりを見せるな。俺が話しているだろう」
「子供に何を吹き込んどるんだ、お前は」
なおも犬のように唸る透栖。彼にとって紫水とは不安の種でしかないらしい。
――と、頃合いを見計らっていたのか斎火が現れた。手には酒瓶を持っている。だいぶん飲んでいるだろうに、彼から酔っている気配はしなかった。
「よ、紫水嬢。元気か?」
「誰?」
「おじさんの事忘れちまったか。あー、馬にも乗せてやったのに」
「それは覚えて・・・ない」
「覚えてないのかよ。ほら、透栖みたいな堅物相手にしてると疲れるだろ?おいで」
紫水はその言葉に素直に従った。そのまま、斎火は娘を従えて風花達の輪へ入っていく。なるほど、あれならば安全だ。
透栖はというと紫水がいなくなったことで宴を楽しむ余裕が出来たのかいつの間にやらいなくなっていた。本当は娘と語らいたかったのだが、彼女は風花に捕まってこちらへ帰って来る気配は無い。
「黎命様」
涼やかな声で我に返る。目の前に少し困った顔をした甘音が立っていた。