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 そういえば呼んだのだった、と彼女等の登場によって数時間前の記憶を掘り起こした黎命は訪れた二人に微笑む。戦に大勝したばかりなので機嫌がいいというのも一つの原因だ。

「何か用、黎命殿・・・?」
「うむ。・・・ところで甘音よ。何故、主はここに?」
「貴方様といえど、紫水様と二人きりにするわけにはいきませんわ。まぁ、そちらの方もいらっしゃるので・・・二人にはならないのでしょうけれど」

 透栖と甘音の視線がぶつかって見えない火花を散らせた。彼女もまた、黎命こそは敬っているような態度を取るが、それ以外には犬のように牙を剥き出した状態だ。さらに透栖は堅物。認めてもいない人間から射殺さんばかりの視線を向けられれば憤慨するのは当然だ。
 そうそうに要件を済ませた方がいい。そう判断し、場の雰囲気を半ば無視する形で国主は話を切り出す。

「紫水よ、主は今日から我が養子になってもらう」
「唐突ね。どうしたの?」

 頭でも打った、と続きそうな言葉だった。無表情の中に明らかな呆れの色を見つけ、苦笑する。養子、という言葉の意味は理解していたようだった。

「客として主等をここに置くには限度がある。故に、俺の血縁者となれば話はまとまると思ってな」
「・・・ふぅん。分かった、私、養子になるわ」
「うむうむ・・・いや、いいのかそんな軽い返事で」
「おかしなことを言うのね?貴方が、養子になれって言ったのに」

 二つ返事で頷いた少女に一抹の不安を覚える。理解したように見えていたのは表面だけで、その実は何もわかっていなかったのではないか、と。甘音の青い顔を見て余計にその心配を煽られた。
 そんな黎命――養父の不安を読みとったのか、紫水は首を横に振る。

「ちゃんと理解しているわ。私、貴方の養子に相応しい子に、なるから」
「う、うむ・・・我が子等には無い従順さと純情さを持っているな、紫水よ・・・」

 子供というのは例外なくどこか憎たらしい一面を持つと思っていたが、撤回せねばならないだろう。世の中、いくらでも例外など転がっているのだと。

「まぁよい。この件については今日の宴で正式に皆へ告げよう」
「宴!?おい、聞いていないぞ黎命!貴様、どこに宴などする金がある!?」
「東雲から譲り受けた財産」
「娘の目の前で言うな!!」