6.





 両刃の剣を振るう。それが朋来の持っている細剣とぶつかって耳障りの悪い音を立てた。そのままその剣を押し返す。力はあまり強くないようだった。
 ――弱い。
 昔、一度だけ刃を交えた時、彼はこんなにも脆弱だっただろうか。
 僅かに思考して、しかし黎命はすぐにその考えを打ち消した。今、考えるべき事柄ではないのだと。
 鍔迫り合いの真っ最中において、勝ちを確信した黎命は刃越しに朋来へ語り掛ける。

「もう一度だけ、言おう。投降せよ、朋来。お前の実力では我らに勝つ事など出来ぬ」

 というより、この状況がすでに東雲軍にとってみれば詰んだも同然だった。大軍の利とは、大将が戦わない事である。こうして、敵の総大将同士が刃を交えているなど言語道断。数の利を無意味と化している。
 ぐ、と力を籠める。
 朋来の顔は相変わらず――蒼い。
 かつて栄華を極めた東雲朋来も、どうやらここで幕引きらしい。決して降伏しようとしない、一軍の長としての矜持だけは見事である。ただ、彼の軍力にはどうにも彼自身の力が不足しているようだが。

「私は――決して、降伏などしない。紫水の件に関しては残念であった、とだけ。言っておこう」
「そうか。ならば――ここで終わりだ。もう二度と、顔を合わせる事も無いだろう」

 朋来の細い刀身を押し返す。ふらり、とよろけた敵将に構う事無く手に持っていた剣を弾き飛ばす。何の抵抗も無く放物線を描いて飛んで行った細剣は鈍い音を立てて地面に突き刺さった。
 焦りと絶望、そんな負の感情が綯交ぜになった朋来の目が視界に映る。

「――斎火!」
「はっ!?・・・いや、本気ですか!?」

 雑兵処理をしていた一番槍は驚いた顔をしたが、すぐに黎命の意を読み取って紫水をその場から遠ざけるべく馬を引いた。何か言いたげな透栖は結局それを言の葉にする事は無い。

「これより、この地は我等のものだ」

 振り上げた剣を一息に振り下ろす。
 鮮血、誰かの怒号、悲鳴、馬の嘶き――それらは産声だ。新しい国の誕生を知らせる、声。

「これからは貴方がこの蒼黎の皇です、父上。まるで、必然のようですね」

 すっ、と隣に並んだ霧氷がそう呟いた。
 そうだな、とそれだけ応えた黎命は斎火に預けていた紫水の様子を見る。倒れた朋来をただただ不思議そうに眺めていた。
 確かに、父親とは認識していないようだったが、何か思う所があるのだろうか。その顔は歳に見合わない神妙さを持っていた。