6.





 あまり非道な事はしたくない。だが、娘の目の前で父親を殺すのと娘を盾にして投降を促すのであれば、投降させる方がいくらか人道的だろう。
 そう結論付けた黎命はその浪々たる声で朋来へ語り掛ける。

「投稿せよ、朋来。娘が大事であろう?命までは取らん」

 驚きに目を見開いた敵将はしかし、次の瞬間には憎々しげにその双眸を細めた。怒り心頭、とでも言いたげな表情に思わず苦笑した。それが余計に彼の怒りに油を注ぐ。
 ――そこに、甘音が到着した。単騎であったが、どうやら無事だったらしい。その手には棍を持っている。

「ひゅう。美人だねぇ」
「甘音・・・」
「嬢ちゃん、知り合いかい?」
「うん」
「そうかそうか!嬢ちゃんもあと3、4年すればいい女になると思うぞ!」

 斎火と紫水の会話が長閑過ぎてここが戦場である事をうっかり忘れてしまいそうな勢いだ。
 が、そんな長閑そのものの空気に充てられたのは黎命だけではなかったらしい。
 すっ、と霧氷が動いた。

「ほう、美しいな。・・・貴様、名は?」
「なんなのですか、貴方・・・」

 ――口説き始めた。いや確かに美人だし、ちょっと性格がキツそうなところを抜けばいい女であると言えよう。が、時と場合を考えてもらいたい。何て雑な戦風景だ。
 敵将であるはずの朋来から半眼で睨まれる。この時ばかりは何の反論も浮かんで来なかった。

「黎命」
「・・・何だ、朋来よ」
「私は貴様に投降などしない」
「娘はよいのか?もちろん、甘音の事も言っている」

 ふん、と朋来は鼻を鳴らした。その顔には何の表情も無い。

「好きにするがいい。知ったことか、あの小娘の事など。丁度、持て余していたところだ」
「・・・そう、か」

 幸いにも。
 紫水は斎火との会話に興じているようで、朋来の言葉は聞いていないようだった。それに何となく胸をなでおろす。
 ――こうなってしまった以上、相手が降伏する事はあり得ないだろう。
 謝るつもりはない、誰に対しても。