6.





 紫水の案内通りに馬を進めればすぐに霧氷は見つかった――が、まだ全然元気そうな息子が刃を交えている相手は、東雲朋来である。どちらが劣勢、というわけではなさそうだが父親を差し置いて早々に戦を終わらせようとしている性悪息子に眩暈すら覚える。
 その首を取るべきは、大将である自分だ、と。
 苦々しい顔をした透栖が隣に並ぶ。

「気丈そうに振る舞ってはいるが、周りは敵兵だらけだ。あまり憤るんじゃないぞ、黎命」
「煩いわ。・・・紫水よ、あれがお前の父親だ――分かるか?」
「ッ!?」

 その言葉に反応したのはむしろ、透栖と斎火だった。大丈夫かよ、とでも言いたげな顔が視界の端をちらつく。問題の渦中にいる紫水はと言うと、父親であるはずの朋来を見ても誰だったか、と首を傾げるのみである。
 本当に認識していないのだ。雑兵に比べて派手な出で立ちをしている男、程度にしか。霧氷も彼女の瞳にしかと写っているはずだが、それすら『何だか派手な人達が戦っている』程度にしか思いを抱かないのだろう。

「・・・もうよい。斎火!」
「はっ!」
「紫水を預かっていろ。決して、怪我などつまらんものをこさえるなよ」
「承知!・・・って、自らの手で討ち取るつもりですか?朋来を」
「見ての通りよ。息子の露払いなど、何が楽しくてするものか」

 最早、戦場の風景に飽きたらしい紫水は土煙が舞う戦場に迷い混んだ白い蝶の行方を目で追っている。
 ――ともあれ、霧氷と朋来を引き離す事が先決だろう。
 このまま彼等を戦わせていれば、うっかり霧氷が敵総大将を殺してしまうかもしれない。紫水の為にも一応生け捕りにする努力はしておかねば。彼女はよい人材だ。手放すにはまだ惜しい。
 馬で喧嘩の仲裁でもするかのように割り込んだ黎命は声を上げる。

「止めよ!」
「っ!?父上・・・!」
「くっ!?この上に黎命だと・・・!?」

 どちらも顔を歪ませる。ここは援軍だと歓喜するべきではないのか息子よ。
 舌打ちでもしそうな勢いで顔をしかめた霧氷は微かに頭を下げる。

「援軍痛み入ります、父上・・・」
「嫌そうに言うでないわ・・・」

 貴様何故ここにいる、と喚く朋来の声が不意に途切れた。何事かと思えばその視線は真っ直ぐに紫水を捉えている。当の本人も強烈な視線を感じたのか顔を上げて朋来を見ているが。
 親子の再会。「紫水」、と朋来が叫んだ。
 しかし、紫水はその声に応じはしたものの、どうして呼ばれたのか分からないという顔を隠しもしなかった。
 確かに存在する温度差。少しだけ涙が出そうになったのは言うまでも無い。