6.





「黎命よ。その小娘は何だ、と訊きたいところだが・・・霧氷の方がちとまずい事になっている。まずはそっちを助けに行かねば」
「こやつは紫水だ。それで、我が馬鹿息子はどこへ?」
「知らぬ」
「何故だ」

 話にならない、と透栖と睨み合う。何故、仲間の位置を把握していないのか。やはり、この軍には緩衝材として風花が必須だった。という事は、元凶は娘の方にあるのだろうか。いや、みんな悪いで決着だろうな。

「おう、嬢ちゃん。こっちの馬に乗るか?黎命殿の馬に乗ってたら、戦闘に巻き込まれちまうからなあ、その点、俺の馬はいいぞー。何てったって今から風花のとこ行くから安全だぜ!」
「私に言っているの?」
「そうそう!ほれ、手貸せ」
「待て!何をどさくさに紛れて休もうとしている、斎火!」

 修羅場からさっさととんずらしようとする一番槍。疲れているのは分かるが、紫水を連れて行かれたら霧氷の場所が分からなくなる。
 そんな事、露にも思わず斎火が苦々しい顔で反論する。

「ですが、黎命殿。この子連れてくってのは、ちっと無理があるんじゃ・・・」
「構わぬ。面倒は透栖かお前で見るといい。紫水に霧氷の居場所を割り出してもらおうぞ」
「えぇ!?出来るんですかね、そんな事」

 戯れもいい加減にしろ、とそれまで大人しかった透栖が非難がましい声を上げる。

「こんな小娘に戦場のいろはなど分かるわけないだろう。気に入ったのか何だか知らんが、大人しく斎火に預けて霧氷を捜すぞ。恐らく、朋来と交戦中のはずだ」
「だがこの乱戦状態。枯れ葉、針山、人混みよな。この中から、たった二人の人間をどうやって捜すのだ」
「その娘は使わんだろう。いいから、風花にでも預けておけ。もしかすると明月あたりがもう居場所を割り出しているかもしれん」

 苛々と歯軋りし始める透栖。彼は最近、どんどん表情が険しくなっていって眉間の皺が消えているのをここ最近見ていない気がする。
 そんな彼はさて置き。ようは結果を示せば問題無いのだから、小言は聞いているだけ時間の無駄である。

「さて、紫水よ。他に目立つ連中は?むろん、先程まで一緒だった奴らは別だ」
「そこ、右に折れて」
「承知した」

 おい、だの待て、だのという声が背後から聞こえるがそれら全てを無視。視線だけ振り返ってみると透栖は当然ながら、休んでいてもよかったはずの斎火までついて来ている。斎火に対してのみ、少々申し訳ない気分になった。