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「あぁっ!黎命様!お捜ししておりました!!」
塔から出てすぐ。伝令らしき兵士が走り寄って来た。汗だくで喘鳴を繰り返しているので、恐らくはずっと黎命を捜していたのだろう。
「どうした」
「西側に進軍していた霧氷様の一行が、東雲朋来と戦闘中です!かなりの混戦状態である上、数上では東雲側が有利!え、援軍を要請しますっ!!」
西側に朋来が現れるのは完全に予想外だった。馬の頭数は足りないのだが、大丈夫だろうか――
「お待ちください、紫水様――ちょ、紫水様!?勝手にふらふらと出歩かれては・・・っ!」
「甘音・・・。眩しいわ。目が、潰れそう」
「それは何年もあの薄暗い塔で過ごしていれば目も退化するでしょう」
――ああ、本当に大丈夫だろうか。
頭を抱えたくなる。霧氷の事だから放っておいてもひょっこり帰って来そうなものだが、事実、兵力は東雲の方が断然上だし、放っておける状態じゃない。
「父上、父上。馬が足りないみたいだったから、一頭盗って来たよ」
「でかした娘よ!紫水、甘音、この馬を使うといい!」
そういえば姿の見えなかった娘が自分の馬ともう一頭連れて姿を現した。馬に関しては右に出る者はいない娘だ。いったいどこから盗って来たのかは敢えて聞かない事とする。
呼び掛けに気付いた紫水と甘音が一瞬顔を見合わせ、とことことこちらへやって来る。まるで姉妹のようだ。
「馬には乗れるな?今から西側の拠点へ向かうが、少々遠い。その馬を使うといいだろう」
「私、馬になんて乗れないわ」
「わたくしは乗れますけれど・・・相乗りは、したことありませんわ」
「ええい!もうよい、紫水、乗せてやる、来い!」
風花に預けてもよかったのだが、戦場へ突っ込む馬だと考えれば彼女に紫水を託す事は出来なかった。