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さて、と黎命はこの二人の処遇について考える。本来、敵将の子というのは処断が基本である。生かしておくと後々意趣返しに来てみたり、いつの間にか敵になって目の前に現れたりといい事が無いからだ。
しかし、目の前の朋来の娘にはそれが当て嵌まらない気がする。
というのも、どうも彼女は甘音とそれ以外の人間の区別がつかないらしい。父親も認識していなかったようだし、どう見積もっても紫水が父親の仇討などと言って挙兵する姿が思い浮かべられない。
そうなってくると甘音の方が気掛かりなのだが、彼女も彼女で東雲紫水には興味があっても、東雲朋来には興味が無いらしかった。
――結論。紫水の珍しい目が気になるので、甘音と一緒ならば軍に入ってくれないだろうか。
それが一番、平和的な解決法に思える。こんな少女を手にかけるのなんて真っ平だ。
黎命の企みに気付いたらしい明月の非難がましい目を巧みにやり過ごし、甘音をあっさりと解放した黎命は一歩その足を踏み出した。
ようは、主である紫水の方に是と言わせれば勝ちだ。
「ところで紫水よ」
「・・・?」
「主、俺達と共に来ないか?お前の言う不思議な目とやら、この鳳黎命が見事使いこなしてみせようぞ」
「それは、私に仲間になれって言っているの?」
「要約するとそうなる」
紫水様、と呟いた甘音は予想通り「従ってはいけません」、という自軍への愛溢れる意見は言わなかった。それどころか、黎命の意図を測りかねているらしく、目を眇め怪訝な顔をしていた。
「・・・甘音も連れて行っていいのなら」
「そうであろうな。もちろん、歓迎しようぞ。さぁ、来い」
「分かった」
あまりにもあっさりと頷いた少女は差し出した黎命の手には見向きもせず、自由を手に入れて戸惑っている甘音の方へと走り去ってしまった。
「貴方がたも物好きなものね。・・・よかったのです、紫水様?父上殿を裏切ってしまって」
「あの場で断っていたら、私達は今頃、首を刎ねられていたに違いないから、いいの」
「・・・なら、わたくしは貴方様に救われた事になるのですか?」
「そうなの?」
「そうなのですか」
後ろで奇怪な会話が交わされているのを聞きつつ、塔の外へ。長い時間を潰してしまった。
「――黎命殿。どうするのですか、あんな者拾って・・・」
「明月よ。朋来は一応、生け捕りの方向で策を作れ。無理をしてまで生かすつもりはないが、な」
「そういう発言を聞くと、貴方も子を持つ親だって事が痛い程分かりますね、はい」