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「で、まずはどこから落とす?要地らしき場所からあたるか?」
そう問えば霧氷は薄く嗤った。心底邪悪な表情にさしもの透栖も口を噤む。
何かを一瞬思案したらしい霧氷は黙って、父親と合流する気があるのか疑問に思えるような方向を指さした。
「えぇ?ちょっと俺には霧氷殿が考えてる事、分からねぇや。つまり、どうしたいわけ?」
「奇をてらった進軍先も悪くはないだろう。我々の進軍先、もしかすると向こうに筒抜けかもしれん。ならば、その優位性をまずは引っ繰り返す」
「何をわけの分からん事を・・・。合流した先で明月と相談しろ、そういう事は」
ふん、とふてぶてしく上司の息子は鼻を鳴らした。何を言っているんだ、と言わんばかりのその態度がとても人の神経を逆撫でする。
「奴は駄目だ。あれには自信が無い。そして私は、あの軍師に命を預ける価値があるとは思えん。よって、私は進軍先の変更を奴にいちいち伝える必要は無いと思うのだ」
「滅茶苦茶言ってんじゃねぇよ。あいつに自信を付けさせにゃ、俺の仕事が増える」
「透栖よ。仲間思いもいいがな、そう言うのであれば新しい軍師を捜した方が早いぞ。あまり過度な期待はせぬことだ」
繰り返し言うようだが、雨久花明月に軍師としての価値はほぼ無い。そう言い切った霧氷はその鋭い双眸を忌々しげに細めた。彼は慣れ合いを嫌う人間ではあるが、そうまで言うという事はやはり何か明月と因縁があるのかもしれない。
非常に困った顔をしている斎火を尻目に、透栖はさらに問い詰める。
「そんな拠点を落としてどうする。敵陣の真中だぞ。誰が守ると思っているんだ」
「守る必要は無い。あの拠点を中心とし、遊撃を開始する。敵は一人たりとも通さなければいい。どうせ、我等を追う兵はいないのだから」
――逃げていくばかりで、追って来る者は一人としていない。
それは事実だった。敗走する兵のようで、まるで戦をしている気がしない。こんなに敵兵の数は多いのに、普通の戦より交戦回数が少ないのが裏付けだ。
だがしかし、納得出来ない。そんな効率の悪い事をしてどうなるというのだ。読み切られる簡単な策を明月が提案するとは思えない。見破られているという事は、見破られても何ら問題無い程に手堅い策であるということ。ならば素直に従えばいいものを。
「あー、お二人さん。そろそろ睨み合いは止めようや。敵兵のど真ん中で足の引っ張り合いなんて冗談じゃねぇ。な?」
「・・・ふん」
「お前もまた絶妙な瞬間に、そういう話の腰を折るような事を言うな。斎火」
「いやぁ、悪いね。あんたらの喧嘩に付き合ってたら命がいくつあっても足りゃしない。頼むから、俺がいない時にやってくれ」
斎火の言葉が若干、刺々しかったのは言うまでもない。