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空気が一段と悪くなってきたところで、前方から逆走してくる影を発見。手に余りそうな大きさをした槍を携えている――
「斎火か・・・」
どこか安心したような声が出た。これ以上、霧氷と一緒にいたらその名の通り色々と凍り付いてしまいそうだったので丁度よかった。
一番槍の彼もまたこちらに気付いたのか、「おおーい」と声を上げながら手を振っている。緊張感の無い奴だが、それは敵兵が周囲にあまりいないからで、本当に切迫した状況下ではやらかさないから安心だ。
早々に合流した斎火は少し疲れているらしかったが一仕事終えた後のような清々しい笑みを浮かべている。そんな彼を労うべく、集団の真中へ。
「いやぁ、早く合流出来てよかったぜ。お?なんか険悪な雰囲気だなー。風花と逸れちまったのか?」
「いや、奴は恐らく黎命のところだ。敵が少ないと言って単騎で駆けて行った」
「うわ、さすがだわ。やっぱりあの人の娘だぜ。夢の単騎駆けをこうもあっさりやっちまうとは」
「無鉄砲も無謀も同じ意味だ。行くぞ、斎火は回収した。こんなところで油を売っている暇は無い」
あはは、と斎火が緊張感無く笑う。こういう場の雰囲気を反対方向に変えられるところは風花にそっくりである。
そう思ったからこそ明月はこの軍に風花を編入したのだが、もちろんそれを知る者はいない。
「どこに進軍するんだよ、霧氷殿。あんたの事だから宛てが無いってこたぁ、ないよな?」
当然だ、と不敵に頷いた霧氷は直角に折れた。
唐突な進路変更に疑問の声を上げるよりまず、馬の手綱を引く。こうやって物理的に反論させないように人を操るところが実に厭らしい手だ。
「父上達は上手くやっているだろう。私達はまだ落としていない拠点を落としながら、最終点で父上達と落ち合う」
「合流する気はない、という事か」
「ま、合理的っちゃ合理的だよな!にしてもムサ苦しいな、この隊。あー、でもうちには風花しか女の子いないんだっけ?」
「斎火よ。我が軍のどこに『女の子』がいる?お前の眼は節穴か」
「あんた、妹に対して俺が吃驚する程冷めてるよな」
何故だろうな、と心底不思議そうに首を傾げるのは苦笑いしている斎火ではなく霧氷だった。
「どこの誰から聞いても、妹とは得てしてそれなりに可愛いものだと聞いたが――私はあの小娘が可愛いと思った事は、ただの一度も無い」
「お前、本当に一度だけでいいから風花に土下座して謝れ。不遇過ぎるわ」
思わず口を挟む。透栖は軍内でもっとも中間管理職が板についている男だった。