2.





「さて、これからどうするべきなのだろうな」

 不意に霧氷が呟いた。怜悧な瞳は逃げていく敵兵を写している。追っている透栖側の人数もさほど多くないが、逃げていく敵側の兵も多くは無い。

「まずはこの先にいる斎火を回収するのが先だろう」
「ああ。今頃、仕事を終えて遊撃体勢にでも入っている事だろう。遊ばせておくには大きすぎる駒だ」
「駒て・・・。まぁいい。風花はどうする?お前の采配次第では、俺が斎火を追うが?」

 ふん、と実の妹の事であるのにまるで他人事のように鼻を鳴らした霧氷は一言「放っておけ」とだけ言った。彼、どうやら風花が単騎で駆けて行ったのを大分根に持っているらしい。

「風花に構っている暇は無い。兵の流れがおかしいようだからな。私達は、そちらを気にするとしよう」
「俺はそれで構わんが」
「ならそれでいいだろう」

 馬の腹を蹴り、速度を上げる。
 逃げていく兵達は本当に逃げていくだけで、伏兵がいる様子も、罠が仕掛けられている様子も無い。

「我々の戦線は、少々楽が勝ちすぎているな」
「霧氷よ。お前は楽するのが嫌いなタチだったか?」
「そういうわけではない。楽が出来る戦ならば出来うる限り楽をしたいが、此度の戦はそういう類のものではないだろう」

 おまけに開けた地だから水計も出来ない、と溜息を吐く。
 ――どうでもいいが、とりあえず早く斎火と合流したい。この何とも言えない微妙な空気を払拭して貰う為に。