1.





 黙々と馬を走らせる。今のところ、敵らしい敵には出会っていないので信じられない進軍速度で敵陣へ切り込んでいる事になる。
 ――のだが。

「あー!父上!明月殿!」
「!?風花・・・!」

 霧氷に付いていったはずの黎命の娘、鳳風花が何故か馬に乗って前から現れた。一体どいう事なんだと黎命は頭を抱える。

「何故お前はここにいる?」
「え?何でかって?いやぁ、あたしが下走ってたら父上達が崖上を駆けて行くのが見えたから先回りして上って来たんだよ」
「ちょ、ちょっと待ってくれないか!?」

 話が飛び過ぎている、と明月がそう言う。一体彼にとって今の状況の何が気に入らないのか。

「その、風花殿はどうして東側に来ていたんだ?君の持ち場は西側じゃなかったかい?」
「そうそれ!聞いてよ、あたし達は大人数で西側に配置されてたでしょ?最初は明月殿が言う通り、一杯敵がいたの。けど暫く雑魚処理してたら、敵兵が東へ流れてっちゃってさ。追って来たの」
「ほう・・・。お前一人か、風花よ」
「そうだね。兄上達はついて来なかったよ」

 話を理解したらしい明月が非難がましい目を風花へ向ける。

「そういう時は深追いせず、こちらの軍へ伝令を飛ばした方がいいと思うよ、風花殿。伏兵とか罠とか仕掛けてあったらどうするつもりなんだ」
「あぁ、そういえば兄上もそんな事言ってたなあ」
「忠告されてたのに来たのかい!?本当に気を付けてくれよ、風花殿・・・」

 どうして彼女が一人で敵陣をうろついていたのかも理解。思わぬ娘の失態に黎命は心中で深い溜息を吐いた。霧氷もそうだが、風花の方もかなりの問題児らしい。

「次からは気を付けてくれ・・・。僕の策が乱されるぐらいならいいけれど、君の無鉄砲さで迷惑を被るのは僕だけじゃないんだ」
「そこは『僕が心配するから』って言いなよ、明月殿」
「ねぇ、僕の話聞いてたかな」