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 しばらくは戦場に散らばる兵――言い方は悪いが、数が多いだけの雑魚処理である。東雲朋来というのは西側に位置する勢力の中でも最大を誇り、彼さえ制する事が出来ればこの東側の国、蒼黎は鳳黎命のものだ。
 兵力こそ少ない鳳には名のある武将が多く、最大兵力を誇る東雲には名のある武将が少ない。微妙に均等化されたこの戦は誰かが仕組んだのではないか、とあり得ない事を夢想。

「黎命殿」
「あぁ」

 馬の手綱を引いた明月から声が掛かる。彼は単騎で周辺調査を行っていたのだが、どうやら完了したらしい。
 それを受け、黎命は手に持った得物を振るう。赤い鮮血が太陽に照らされてキラキラと輝いた。

「裏手から奇襲を仕掛けましょう。馬でならば上れます」
「承知した。先を行け、明月。俺は後から続こう」
「御意」

 ぱっ、と明月が身を翻す。
 引いてきた軍は東側をうろついている兵士達と交戦中。つまり明月は大胆にも夢の単騎駆けを指示したのだ。
 ――そういう剛胆なところは、評価に値する。

「たまには単騎もよいものよな」
「黎命殿は目を離すとすぐ、一人きりになるじゃないですか・・・」
「そうだったか?」
「殿はもっと透栖殿に感謝するべきだと思います、はい」

 今回は別隊である神楽木透栖を思い浮かべる。そういえば、今日も軍の士気がうんちゃらと変なところに気を回していたようだった。どうしてそう、自ら疲れるような事をしたがるのか。
 暴君と名高い黎命は気付かない。そんな彼の様子を少々呆れた表情で明月が見ていた事を。

「お好きですよね、単騎駆け」
「格好いいだろう?」
「えー・・・いや、僕はそんな事する度胸も技量も持ち合わせていないので、何とも・・・。貴方が用意してくださった彼等を僕の策で奔走させている方が楽しいですね」
「ううむ。やはり軍師とはいまいち話が合わんなぁ」
「え。すいません」
「よい。誰しもが大将首を付け狙う軍なぞ、ただの殺人集団になってしまうわ」

 凶暴な人間がただでさえ多いのだ。こういった落ち着いた手合いが一人いなければ、軍として成り立たない。

「もっと霧氷の奴にも落ち着きがあっていいと思わぬか?誰に似たのであろうな・・・」
「あの、それ僕にネタとして話振ってますよね?『あんたに似たんだろ』って言われるのを待ってるんですよね、黎命殿」

 馬が乗っている人間に黙れと言わんばかりに嘶いた。