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「出陣します。黎命殿、斎火殿は僕と来てください」

 あぁ、と黎命は素直に自軍の軍師の言葉に応じた。黎命の軍には生憎と軍師が一人しかいない。明月の才能こそ認めている黎命だったが、あの自信の無さは後々に響いて来そうなので彼を補助する意味合いでももう一人軍師が欲しいところである。
 残された他の武将達もまた、明月の指示を受けると散り散りに自軍を率いて駆けて行く。馬の蹄の音に黎命は恍惚とした笑みを浮かべた。

「おお、やる気ですね黎命殿!んじゃ、いっちょ俺も出ますか!」

 斬り込み担当――即ち、一番槍を務める事が最も多い斎火が勇んでそう言うのを聞き、明月が反応する。全ては彼が布いた陣であり、それら全権を彼に委任している黎命は唐突に割って入った部下を諫めず、黙って話を聞く姿勢を取った。

「斎火殿。我々は東から攻めよう!」
「えぇ!?ほぼ全軍、西行っちゃってるぞ大丈夫かよ!?まさか、俺を殺す気じゃないだろな!」
「そんなわけないじゃないか」
「いや、この間、無理矢理お前に酒飲ませた時「いつかこの借りは返す」つってただろ!?」
「覚えてないのだが・・・。その、東側には何故だか敵兵が少ない。だから僕達、少数精鋭で黎命殿が仰る通り先に大将首を取ってしまった方がいいと思ってね。あ・・・嫌、かな?」
「目的があんならいいぜ!任せとけ!この戦場を一気にひっくり返してやんよ」

 ひゃっほい、と謎の掛け声を上げながら斎火が離脱する。彼が引く軍は先陣を切りたい猛者ばかりが集まっているので、すぐさま同道。躊躇い気配は微塵も無かった。
 しかし、そこで何故か斎火が戻って来た。相変わらず軍は進み続けている。

「あ、明月。言い忘れてたが、一応言っておくぜ!」
「え?どうしたんだい?というかそれは、戻って来てまで言うことかな?」
「うーん、戻ってまで言う事じゃねぇけどまだ敵の姿も確認出来ねぇし、余裕あっからさ。なんかヤな予感すんだよ。気ぃ付けとけ!そっちは2人しかいないからな!」

 じゃあなもう行くぜ、とそう言って手を振った斎火が直ぐさま見えなくなる。彼の馬術は目を見張るものがある。
 さて、と話が終わったのを見計らって黎命は口を開く。
 ――この戦、気弱な軍師に自信を付けさせる為のものでもあるのだ。彼には今からキリキリ働いてもらわなければ。

「して、明月よ。我々はどうする?」