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「あ、えっと・・・その、助けて?いただいてありがとう、ございます」
気にしないで、と微笑んだ伊織の肩越しに見えるのは敵意をむき出した双眸。彼――神楽木千石がどうしてこうも自分に敵意と警戒を向けるのかようやく知った。目の前、会話している彼女が一国の姫君だからだ。得体の知れない人物と2人きりにしておきたくないのだろう。
それは無言の警告であり忠告であり、脅迫だ。何もしてくれるなよ、という。
よくよく見れば彼女等は武装している。かなり軽装だが、明らかに外へ出る時の格好だ。
「私は貴方が困っている――というか、困った事に巻き込まれているのを知っていたから助けに来たけれど、それ以前の事についてはよく知らないんだ」
「え?あ、あぁ、はい」
「この先どうなるか、っていうのは薄ボンヤリ分かるんだけど」
ここでまたもや神楽木千石が割り込んで来た。見れば、馬はすっかりつないでしまい放置している。
「おい、いつまで無駄話をしている。お前の長話に付き合わされる身にもなれ。そして、そいつは身元不明者だ。不用意に近づくな、親しげに接するな、伊織」
分かっていた事だがもっと本人がいないところでこの手の話はするものではないだろうか。ささやかな疑問を抱きつつも、その顔に無理矢理笑みを浮かべてみる。千石は一瞥しただけで何も言わなかった。
「そういう言い方は・・・よくないと思うなあ。だいたい千石様、そこは嘘でも私の事が心配だからって言おうよ」
「俺に嘘をつけと言うのか」
「いやいや、そういう話をしているわけじゃなくてね・・・」
「もういい、黙れ。お前も何をぼんやりと聞いている。こうなった理由を簡潔に話せ」
話はそれからだ、と切れ長の瞳に睨まれて背筋が凍る。この人、かなり恐い。伊織がどうしてこうも親しげに会話出来るのかちっとも理解出来ない次元だ。
――しかし、自分にとってもこの救援者達にとっても状況の整理は必要だろう。言い方と態度に大きな問題があるものの、助けてもらった手前、文句を言うのは大人げない。というかそんな度胸は無い。
正直な話、東国からの救援者が来るのはおかしな話じゃなかった。ここは東国の国境付近。簡単に言えばすでに東国の領内なのだ。
だから問題は、その救助活動に鳳堂院伊織その人が出て来た事にある。