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 話は数日前の北国に遡る。
 その日、宮仕えの葦切十六合、そしてその兄達である葦切阿佐間に佐佐布が謁見の間に呼び出されていた。
 仕事の話である。

「よく来ましたね」

 そう言って上座から微笑み掛ける女性――彼女こそが北国女帝、吊花玻璃である。余談だが十六合は彼女を女性として尊敬しており、また姉のように慕っている。
 ともあれ彼女の出現により、長兄である阿佐間が跪いた。弟、妹である後続もそれに習う。
 話を聞く姿勢に満足したのか、一つ頷いた彼女は立っていいと一言告げた後、おもむろに話を切り出した。

「東国から救援要請の早馬が来ました。これより、同盟国として援軍を出さねばなりません」
「東国・・・?一体、どこの国が彼の国を攻めたと?」
「内乱のようです。我等が危惧すべき事ではありません、安心なさい」

 難色の色を示す阿佐間。彼には内乱などという行動の原理がいまいち理解し難いようだった。裏切りとは無縁の思考力である彼には恐らく一生懸けても解けない難問だろう。

「どこの誰が内乱など・・・我が国に援軍を要請するとは、周到な相手だったのでしょうね」

 話を引き継いだのは次男、佐佐布。彼は至って平静な顔色だった。兄と違い、世の中綺麗事だけじゃ渡っていけない事を十二分に理解している彼にとっての問題は相手の力量だけだった。

「仕掛けたのは石動殿の実の娘、伊織殿だそうです。書状にはそう書かれており、また、彼女に組みする武将も多いとか」
「把握しました。すでに国が乗っ取られていた場合は、伊織殿と同盟の締結を?」
「えぇ。北国はどこの国とも戦をするつもりはありません」

 人と同盟を結ぶのではなく、国同士の同盟。国主が変わったのならばその新しい国主と同盟を組むまでである。
 その意図を薄々理解した十六合は深く頭を垂れる。

「行ってくれますね。死なないように全員で戻って来なさい」
「承知」

 兄弟達の答えを統合し、阿佐間が力強く頷く。
 こうして、東国への遠征が決まったのだ。