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予想通りというか、やはり鳳堂院石動は首を縦に振らなかった。伊織の言葉に心を揺さ振られたのは事実だったが、それでも寸での所で踏み留まった。
「許可は・・・出来ん。もう、遅すぎる。自衛も出来るか怪しいお前を戦場へ立たせる事など余には出来んよ」
「そう・・・ですか」
呟いた伊織は懐から小刀を取り出した。つまり、彼女は今の今まで武器も持たずに謀反だ何だと騒いでいた事になる。それは結果的に更科志摩を混乱させ、土御門悟目を油断させたのだがこと、ここに来てしまえばそれは足を引っ張る要素でしかなかった。
まさに悪手だったのだが、それは石動にも伝わった。眉根を寄せ、訝しげな顔をしている。東国きっての武将である自分に刃を向ける事が策なのか、と。
「愚かな・・・」
「母上も、貴方の意見を曲げる為に実力行使に出たと言います。母に出来るのならば、私にも」
亡き母親が一度だけ盛大な夫婦喧嘩をやらかした時に使った手。今度は娘が使う番である。母の話だと実力行使に出て勝ったのは彼女だったらしい。一体、どうやって武で石動に勝ったのかは聞かないでおいたが。
その一言で苦々しい思い出が蘇ったのか、皇帝は一瞬だけ悲痛な顔をした。そうとう手痛い仕打ちを受けたのだろう。その顔は心なしか蒼い。
「伊織よ・・・お前は、母とは違う人間なのだぞ?」
「承知しています。というより、世の中に同じ人間などいませんから」
睨み合う両者。それは少々温度差があったが。
絶対に勝とうと意気込む伊織。
どうあしらうかとそればかりを考える石動。
温度差が生じるのは最早、必然だった。