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玉座が置かれている間にて、鳳堂院伊織と鳳堂院石動は向かい合っていた。周りに人影は無い。
つまり、完全なる一対一だった。
さすがの石動も呆れを隠せない。というか呆れ戸惑っている、という表現が正しい。
「伊織よ、他の面子はどうした?まさか、余に一人で勝てるとでも思っているのか?」
「そんな事ありませんよ、お父様」
ただ、と伊織は微笑む。父が何を考えているのかなど微塵も分からない。彼女の目で見通せるものは『未来の様子』であって、他者の心中ではないからだ。
「他の協力者達は置いて来ました。お父様、私の考えている事、分かりますか?」
「分からん。故に、お前の口から教えてもらいたものだ」
「えぇ。ただたんに、一対一で話したかっただけなのです」
悟目殿がそう仰ったので、と伊織は少し顔を曇らせる。この謀反に関し、まったくの罪悪感を抱いてはいないようだったがどうも悟目の件に関しては心を痛めているのだ。彼女の心中もまた、複雑怪奇である。
「先生が言う事は、間違っていないでしょう。けれど、私は私がした事に関して後悔はしていません。こうでもしなければ、お父様と話す事も無かったでしょう。私の背を押したのは、協力者である彼等です」
「うむ・・・。少し見ない間に、随分と殊勝な事を言うようになったな、伊織よ」
「それが成長というものじゃないですか」
「自分で言うな・・・」
一瞬会話が途切れたその瞬間に、石動の表情が一児の父であるそれから、総大将であるそれへと変わる。切り替えの早さだけは親子で似ていたが、それを指摘する者はいなかった。
「ならば聞こう。伊織よ、お前の要求は何だ?」
「教えれば考えを改めてくれるのですか、お父様」
「それとこれとは話が別だと知れ」
父と娘――否、敵の総大将同士が顔を突き合わせる緊張感。
初めて感じるそれに、伊織は小さく身震いした。