3.





 刀を振るう――いなされる。
 刀を振るう――躱される。
 そんな攻防を延々と繰り返す。頭に血が上っているという自覚はあったが、目の前の敵を倒さない事には伊織に顔向けが出来ない。

「千石!おーい!あぁ、チクショウ聞いてねーな・・・」

 背後で何やら南雲が騒いでいるようだったが気にも留めず、再び一色へと刀を振り下ろした。もちろん、するりと猫のようなしなやかさで躱されてしまったが。
 手を出すのを止めた南雲が後ろで蕩々と語る。

「もう姫様、王座までたどり着いてるかもしんねーぜ。ここでもたもたしてたら、大将戦見逃しちまうってー」
「ほう!伊織め、もう石動殿の所まで到達していたか」
「そうなんですよー、一色殿。つーわけで、そろそろくたばってくれませんか?」
「ふん、それは無理な相談というものよ!」
「なんであんたはそんなに元気なんだ・・・」

 ――伊織からすでに追い抜かれていたらしい。
 だとすると、本当にここで一色を足止めしていなければ大惨事になりかねない。石動と彼が組んでこちらの軍を攻撃してくるなんて、恐ろしいとしか形容出来ないだろう。
 そして、石動と対峙している組みも気になる。あの人は王と言うよりは武人で、この東国を統一するまで数々の敵将を屠ってきた本物の猛者。そんな筋肉な父に娘がはたして勝てるのだろうか。

「恋愛とは偉大なものだな。よく前を見ろ、千石」
「いえ、父上の事を考えているより伊織の事を考えている時間の方が有意義ですから」
「それは本人に言ってやれ・・・」

 そんなやり取りをしていた、丁度その瞬間。
 頭上から凄まじい破壊音。さすがの双方も同時にその手を止めた。こんな物音、そうそう聞く事など無いだろう。城中に響いたような轟音だった。

「あー・・・?何だ?この真上、つったら・・・石動殿の部屋じゃねーか」
「え」
「何かあったのかね」

 咄嗟に頭上を見る。が、もちろん天井に阻まれて何も見えなかった。