3.





 神楽木親子は刀を。
 洞門南雲は双剣を。左手は逆手に持ったそれは普通の刀より幾分か短いが、小刀と言うには些か大きい。

「この戦国において刃物ばかりが揃うとはな。一人ぐらい槍がいてもよかっただろうに」
「まったくですね。南雲、お前得物を変えてこい。かぶり過ぎだ」
「いやー、俺さぁ、お前の援軍で来てるんだよな?なんでこう・・・孤独感、疎外感を味わってんのか理解に苦しむんだけど」

 俺が明らかに異物みたいだろうが、と南雲が肩を竦める。千石はそれを知るかと一蹴した。彼の話はくどい上に回りくどい。聞いているだけで苛々してくるのだから仕方が無いだろう。

「だいたいよー、千石。お前いつも――」

 南雲の言葉は途中で途切れた。
 千石と一色がまったく唐突に斬り合いを始めたからだ。
 もちろん神童には南雲が油断しきって会話に興じているのを一色が虎視眈々と狙っている様が見えていた。故に、唐突に始まったと思われる戦闘は少し前から腹の探り合いという形で始まっていたと言えるだろう。
 神速に程近い速さで鈍色が一閃、二閃する。南雲が割り込めないらしいので、形式上は最初と何も変わらない。
 だが、むしろそれでいいと千石は思っていた。伊織が父に下剋上を仕掛けた以上、自分が自身の父相手に手こずっていては話にならない。彼女に顔向けできない。

「俺を、忘れんな、よっ!」
「なに・・・?」

 わけのわからない間合いで南雲が仕掛ける――目測だが、彼が持つ双剣の刃渡りではその位置からの攻撃は意味を成さない。一瞬、千石の視線が南雲の方へと泳いだ。
 一歩、二歩目で踏切。
 伸びて来たのは逆手の左でもなく、右手でもなかった。
 ――脚。
 鎌のようにしなった脚を一色のそれへと引っ掛ける。完全に予想外だったのか、父の目が微かに見開かれた。
 が。

「甘いわ!浅はかな事この上ない!」

 大勢を崩しかけた一色は見事に持ち堪えた。はっと我に返った千石は、すかさず無防備になった一色へ刀を振り下ろす。しかしそれは、一色が身を翻したことで無効となった。

「だからー、俺を忘れないでくださいよっ!一色殿!」

 顔面へと南雲が逆手に持った刃が向かう。薄く嗤って右足を一歩前に出した武人はそれを軸足に回転。甲高い音とともに南雲の左腕が払われる。
 回転の衝撃に耐えられなかった南雲は二撃目を繰り出せなかった。双剣の武器である手数を封じられたのだ。辛くも一色からの追撃を避ける為、無理に向かわず数歩下がる。双剣の彼を逃がす為、千石は横合いから飛び出した。
 しかし――これは一色の予想からまったく違わない動きであったが故、拍子抜けする程にあっさりといなされる。
 ――倒しきれない。
 そんな言葉が脳裏を過った。