3.





「いやぁ、さすがは姫様だわー。どんぴしゃだ」

 緊張感無く現れた南雲はそう言って笑った。その顔にもやはり緊張感らしきものは伺えない。苛立ちを込めて増援を睨めば彼は苦笑して肩を竦めた。謝る気も無いらしい。

「お前はもっと緊張感を持て・・・!」
「いやー、悪いな。親子喧嘩に水差してでも全部姫様の指示だ。俺は責めないでくれよなー」
「そういう事を言っているのではない!だいたいお前は――」

 そこまでだ、と言葉を遮ったのは父である一色だ。心底鬱陶しそうな目で南雲を見やり、続いて挑発的な目で千石を見る。まさに無言で相手の心を掻き乱す上級技であったが、神童と謳われる千石には通用しない。
 もちろん、劣等感というか神楽木の二人組を完全に人間という区分から一線引いたところと捉えている南雲にも良い意味ではないが、通じなかった。

「乗ってやろう、南雲。お前の浅はかな演技力では私は騙せぬが、誰の入れ知恵なのかは気になるからな。さぁ、私の興味を引く話を最大に引き延ばしてみせろ」
「あちゃー・・・時間稼ぎしてるって、バレてました?」
「前々から思っていたが、南雲よ。お前に演技は無理だ。顔に出過ぎる」

 まったくだ、と千石も追随。何とか話題を伸ばそうと南雲に食って掛かったり、彼の与太話に乗っていた彼だったがここまで演技が下手糞だといっそ清々しい。

「手厳しいですね・・・でも、姫様曰く、俺が適任らしいんですけど」
「伊織だって人選がいなければ適当な事も言う。お前は伊織の何を知っているのだ」
「何で俺がこんな責められてんだろーなー。あれ、涙で前が見えねぇ・・・」

 はっ、と鼻で嗤った一色が呆れたように首を振る。それは嘲りであり、侮蔑でもあった。

「予定調和の策など長続きはしないぞ。伊織が何を考えているのか、この一色にはまるで理解できんなあ」
「父上、貴方が理解する必要はありません。伊織の事は俺だけが分かっていればいい」
「千石よ。お前の恋愛からは犯罪臭がプンプンする。気を付けろ」
「とか言いながら仕掛ける準備とか、ホント、一色殿えげつねーですよ。俺がそんな動き、見逃すと思ってるんです?」

 父との口論に熱くなっていた千石は見逃したが、南雲はそうではなかった。腐っても先陣を務める六角の部下。キナ臭い動きにすぐさま反応、自らも得物を構える。
 ははっ、と一番槍の右腕は自嘲気味に笑った。

「やっぱり、俺も会話で時間を稼ぐよりこっちの方が性にあってるみたいですね。あーあー、そんなに脳筋じゃなかったはずなのになー、俺」
「ほざけ。いいから黙っていろ、お前が話すといちいち腹が立つ」
「ありとあらゆる意味で恐ろしい奴だよ、神童」

 南雲の何か言いたげな視線が突き刺さった。