3.





 一方、柳場春雨の登場にともなって先を急いだ神楽木千石はまったくの偶然――それも、最悪の部類に入る偶然に行く手を阻まれていた。彼はあの後、誰一人として仲間に出会っていないので完全なる孤軍奮闘である。

「予想外、とでも言いたそうな顔だな。千石よ」
「まさか。それは貴方の願望であり、事実ではないでしょう。父上」

 神楽木一色。実の父その人であるが、つい数時間程前に苦杯を舐めさせられた後である。自然、千石の顔が強張る。予想外である事より、因縁の相手と対峙することで自らの冷静さを欠く事の方が何倍も恐ろしく思えた。
 神童は頭の片隅のどこか冷え切った部分でそう思いながら己の得物に手を掛ける。
 そんな息子の仕草など意に介さず一色は嗤った。それはもう、煮え滾る熱い何かを内包したような冷笑であった。

「少し奔放過ぎるようだな、千石。貴様をそう育てた覚えは無いのだが」
「それは残念です、父上。この神楽木千石は父が思うような将には育たなかったようだ」
「ふん、減らず口を。人の神経を逆撫でするのが趣味なのか。あまり感心せんなあ」
「相手の心を揺さぶるのも、立派な兵法でしょう」

 はぁ、と溜息を吐くと同時に一色は刀を構えた。千石と同じ武器であるそれは、使い手を選ぶ。

「何故、一人でうろついているのかは知らんが、好都合。このまま各個撃破するとしよう。ふん、所詮は戦など知らぬ子世代。我等には遠く及ばぬわ」
「それが傲慢であり偏見であると、俺が教えて差し上げましょう、父よ」
「高千穂も手のかかる子であったが――お前もまた、そうであるのだな。面倒な事よ」

 舞っているかのように軽やかに、一色が地を蹴る。何の音も、予備動作も無いその動きは神楽木に伝わる剣術である。
 一直線に突き出された刀身を千石はくるりと半回して躱した。
 千石と一色の立ち位置が完全に逆転。背景だけを変えて変わらず対峙する。

「長丁場になりそうだな」
「誰も来なければいいですね、父上」
「ほざけ」

 ギィンッ、と鋭い金属音が連続して3度響いた。