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「最後に・・・一つだけ、尋ねてもいいですか・・・?」
「はい?」
最初にはぐらかされた問い。
それを最後に持って来た悟目は二度目のその問いを口にした。
「何の為に、こんな事を・・・?貴方の事です・・・理由も無く・・・なんてことは、ないでしょう?」
驚いたような顔をした姫君は一瞬だけその大きく《先見》という偉大な力を持つ瞳を揺らした。それは迷いではなく、動揺だった気がする。今ここで、師に話してしまってもよいのか、という。
ややあって彼女は首を横に振った。
「私は――私は、お父様に認めてもらいたいのです、悟目殿」
「・・・それは、何故ですか?不自由している・・・わけでは、無さそうに見えますよ」
「不自由でない事が、必ずしも認められているとは限りません。先生は、篭の中で飼う小鳥に何か期待する事でもあるのですか?」
「いいえ・・・。見事な返しです・・・伊織さん」
そして、と悟目は笑った。ああやっぱり彼女は軍師には向いていないな、と。
「貴方がわたしを・・・貴方の仲間として誘わなかった理由・・・分かりましたよ。貴方は・・・師であるわたしにも、認められたかった・・・のでしょう?」
「失望しましたか?妙な考えを起こす弟子だと」
「ふ、ふふ・・・そんな事はありません・・・えぇ、ありませんとも。わたしの事など眼中に無いのかと・・・心配していただけですよ・・・」
いきなさい、と弟子の背を押す。
残るは神楽木一色と――殿下たる鳳堂院石動その人だけだ。更科志摩はここにいない時点で敗北したのだろう。
「おーい、姫さん!ただ今戻りましたぜ!」
「どうっすか?悟目殿、上手く籠絡できました?」
「しっ!高千穂、しっ!何てことを言うんだ・・・!!」
がやがやと賑やかな声。
どうやら伊織の率いる軍の主格達が戻って来たらしい。まさかこの部屋を待ち合わせ場所にしているとは。
予定調和というか、ご都合主義というか。
ともあれ、完全に傍観役に徹した悟目は椅子に深く腰掛け直した。足を引っ張るであろう自分がまさか立って歩いて付き合うわけにもいかないだろう。