2
「伊織さん・・・伊織さん、何故こんな事を・・・」
春雨を警戒しつつ、じゃじゃ馬姫に問うてみる。空元気じみた笑顔を浮かべていた彼女は、眉根を寄せて困ったように笑った。その笑みが大人びているような気がして、ああもう彼女は子供ではないのだと嫌でも思い知らされる。
「どうですか」
「え・・・?」
「どうですか、私が考えた策は。私が起こした行動の全ては、先生の教えです。貴方が根気強く教えてくれた成果がこれですよ」
「それは・・・わたしを非難しているのですか・・・?」
いいえ、そんな事ありませんと慌てて姫君が首を振る。
「やはり悟目殿は聡明な軍師ですね、って事です」
「それは・・・どうも。伊織さん、もう・・・気は済んだでしょう?こんな事はもう・・・」
「止めませんよ。まだ」
「何が望みなのですか・・・?まさか、本当の意味で父上殿を討ち取るおつもりで・・・?」
「そうだったとしたら、春雨殿は今ここにいないと思いますよ」
ますます意味が分からない。
遊びではあるが、遊びではない。そんな矛盾を孕んだような言葉に悟目は困惑の意を込めて伊織を睨み付ける。
どうすれば、彼女を上手く投降する方向へ誘導出来るだろうか。
「さぁ、悟目殿。我々と一緒に行きましょう?生憎、志摩殿には断られてしまったのです」
「会ったのです・・・か、志摩殿に?」
「いいえ」
「はぁ・・・?」
一つだけ言える事は、と悪戯っぽく彼女は笑う、嗤う。
「志摩殿も、東軍に仕える優秀且つ高名な将軍様だという事です。やはり、私達の同期とは違いますよね」
「伊織さん・・・いえ・・・わたしも、貴方に手を貸すわけには・・・いきません」
「ですよね」
「ですが・・・この状況」
春雨とばっちり目が合う。すいません、と小さく頭を下げられた。
「――仕方ありません。力を貸す事は出来ませんが・・・大人しく・・・敗将を演じるとしましょう・・・」