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ほぼ無力に等しい軍師を連れた志摩は手近にあった城内の拠点――部屋の一つに忍び込み、鍵を掛ける。部屋数が多いので、まさかその中の一つに軍師とその護衛が隠れているなど、伊織は露にも思わない事だろう。
一瞬だけ《先見》の二文字が脳裏を掠めたが、所詮そんなものは児戯であると思い直す。星読みなんかで戦の趨勢が決まって堪るか。
「険しい顔、ですね・・・志摩殿」
「貴方は少し落ち着き過ぎていると思う。それに、今は戦の真っ最中。俺は戦と聞いて笑っていられる人間ではないよ」
「そうですね・・・」
「ところで悟目さん。貴方は姫様がどんな手を打ってくるのか、分かるのか?随分、具体的に策を思い描いていたようだが」
えぇ、と名軍師は頷いた。最近では国が安定したので内政ばかりに手を染めていた彼だったが、軍師時代の手腕は鈍っていないらしい。僥倖な事である。
「伊織さんが打つ手、というのはわたしが教えたものだけですから・・・。つまり、ほとんど・・・私の策と変わらない、という事になります・・・」
「成程。道理だ」
「ただ・・・恐いものがあるとすれば、戦場に出たことが無い故の・・・素人感、ですかね」
素人程、玄人にとって恐いものはない。
型に嵌らない動きを取る事が出来る素人は玄人同士の戦いならばあり得ない行動に平気な顔をして打って出るからだ。
「確かに、姫様ならば・・・あり得ない事は無い、な」
「えぇ・・・えぇですから、微調整が・・・必要なのですよ」
本来ならばわたしが戦線に出るなんてとんでもないわけですが、と悟目は苦笑した。
――と、不意に志摩は廊下から聞き慣れた音を聞く。
「足音・・・複数人の足音が聞こえるな。嗅ぎ付けたと言うより、通り過ぎようとしているのか」
「どうでしょうね・・・」
「――俺が見て来よう。悟目さんは部屋から出ないように」
「承知いたしました」
あくまで奇襲を掛けてやるつもりで、志摩は軽やかに廊下へ飛び出した。行き過ぎたところを後ろから襲ってやるのも悪くは無い。