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途方もなく気まずそうな顔をした雲雀だったが、彼は意を決したように頭を振った。そのさまはまさに邪念を振り払っている、という表現が正しい。雲雀の出方が分からないので、南雲達もまた動けずにいた。
「本当にすいません、春雨殿。ですが、敵味方が入れ替わるのは戦の常。恨まないでいただきたい」
「・・・と、言うと?」
「事を穏便に済ます為にも、どうか伊織殿に降ってくださらないでしょうか」
「それを僕が断ったらどうするつもり?」
「俺と貴方の距離感を見ればわかると思います」
言外に言わせるな、とそういう雲雀。口調こそ躊躇いが見受けられるが、もしここで春雨が否と答えれば問答無用で手にした槍を振るう事だろう。
――つまり、伊織側の陣営は作戦に成功したという事だ。
「ううん・・・困ったな。もしかして僕は孤立している?」
「そう、なりますね」
「まさか君が裏切るとは思わなかったよ。まあでも・・・こんな、よくわからない防衛線で怪我をするのも馬鹿馬鹿しい」
ぶつぶつと呟きながら一瞬だけ考えた弓師は仕方が無いと言うように一つ頷いた。
「どうしようもないね。なら僕も君達の共をしよう」
「・・・それ、本気で言ってますか?春雨殿」
「南雲、君は意外と用心深いよね。まあ、これで信じてくれ」
2階からあっさり飛び降りる春雨。これで地の利は無くなった。彼がいきなり攻撃してきても、防ぎきれる自信がある。続いて、雲雀も軽やかに1階の廊下へ着地。こうして、離れ離れになっていた新参達が一堂に会す事となる。
「ところで六角殿。一つ、お聞きしたいことがあるのですが」
「あ?どうした、春雨」
「ちょっとご都合主義じゃないですか、この状況。まるで救世主みたいに雲雀が現れて、奇跡的にこうして新参達が集まっている。偶然にしては、出来過ぎだと思いますけど」
そりゃあそうだろう、と六角は笑った。心底愉快だ、と言わんばかりに。
「今こうして俺達がこの場にいるのは、全部、姫さんが作り上げた予定調和だぜ。あの人の目はやっぱり伊達じゃねぇな」
――そうか、あの時の耳打ち。
軍を分ける前に伊織が六角へ伝えていたのは、事の全貌だったのだ。今後の憂いや、不確定要素に対する警告ではなく、今後の身の振り方を命令しただけ。
一体、どこまで彼女の手の上で踊らされているのだろう。
「その、六角殿。差し支えなければ、伊織殿が何と言ったのか教えてくださいませんか?」
問うた雲雀に対し、目を細め肩を竦めた一番槍は答えた。
――貴方は何も考えず、ただ一番槍として進めばいい。貴方の進路を塞ぐような御仁は、まだ出てこないから。
と。