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「すいません、六角殿。志摩殿の命により、貴方はここで捕縛します」
少しだけ心苦しい顔をした柳場春雨がそう宣言する。彼は距離を詰められれば無力で六角の足下にも及ばないような戦闘能力しか有していないが、これだけ距離があれば春雨の独壇場だった。
そんな彼の視線が、先程到着した南雲一行に注がれる。
「南雲、千石。僕は疲れているから早く仕事を終わらせて部屋へ帰りたいんだ・・・悪いとは、一応思っているよ」
いまいち中立的な意見だ。命令を淡々とこなしているようにも見える。上手く言いくるめられたら、仲間になってくれないだろうか。
――いや、遠征から帰ったばかりの人間に何を期待しているのだろう。
遠慮容赦無く放たれた矢を、六角が素早く避ける。当たりはしないが、それもいつまで続くか。
「――千石、先に行ってろよ。俺が六角殿を援護する。姫様を一人にしておくわけには・・・」
「いいだろう。では、六角どの。俺は先に行きます」
春雨から視線を外さず、六角が是と答える。
「おう。行け行け。姫さんの事、頼んだぜ」
「承知」
ぱっ、と何の躊躇いも無く千石が身を翻す。春雨の視線が一瞬だけ千石を捉えたが、やはり彼の役目は六角の足止めだったらしく、千石に対して何らかの牽制を加える事は無かった。つまり、見逃した。
それを見届けた南雲は自分の上司に視線を移す。この人とは何やかんやで長い付き合いだ。伊織も大事っちゃ大事だが、自分の面倒を見てくれたこの上司を捨て置く事も出来ない。
「よーし、今からどうしますか、六角殿」
「お前も行ってよかったんだぜ?」
「まぁまぁ、そー言わず!これだけ間合い取られてちゃ、あんた春雨殿に手も足も出ないじゃないですか」
「あぁ!?喧嘩売ってんのか!?」
「違いますって!そんな事言ってる場合じゃないでしょ!」
会話中、律儀に待っていてくれる春雨に涙が出そうになった。