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雑兵を薙ぎ倒し薙ぎ払い進む上司、阿世知六角。その働きには感服せざるを得ない。彼の化け物じみた体力のお陰で、洞門南雲と神楽木千石はただ走っているだけでいいのだ。軍師経験皆無である伊織の指示だったので若干心配してはいたが、今のところ上手く行っているらしい。
しかし、城攻めしているはずなのに走っているだけというのはどういう事なのか――
「南雲。ぼぅっとしている場合ではないようだ」
「えー?」
不意に呼ばれて隣の同僚を見れば彼はこっちじゃなくてあれを見ろ、と前方を指さした。んん、と思わず間の抜けた声が漏れる。
「六角殿・・・なーんで止まってんだ?」
「何かあったのだろう。合流するぞ。あの人にだけ任せておくわけにはいかん」
「そーだよなあ。ちょっと俺達、楽し過ぎだよなぁ」
「そういう事だ。今まで楽してきた分、死ぬ気で働け」
「俺限定かよ!」
先陣を切る事に関しては右に出る者のいない六角だったが、一体どんな猛者が、或いはどれだけの兵が待ち伏せしていただろうかと頭を捻る。何人か候補は挙がったものの、こんな序盤で出て来ていい人物ではないか、または不在の人間の顔がちらついただけである。
これは由々しき事態だ。早々に解決しなければ、いくら伊織達の方が雲雀を仲間につけたとしても、主戦力は六角側に寄っている。こちらの部隊が沈められれば本当にどうしようもない。
「――そういう事か・・・南雲、春雨殿が帰って来ている」
「えぇ!?あの人、まだ帰って来ねぇんじゃなかったのかよー」
「その馬鹿っぽい喋り方を止めろ。勘に障る。・・・六角殿と春雨殿の相性は最悪だ。まずはあの人を叩いてしまおう。六角殿に気を取られているうちに、倒す」
「ねぇ今の話に俺の話し方関係あった?・・・まー、そりゃ俺もお前の意見に賛成するぜ」
そうしてようやく南雲は自らの視界に柳場春雨の姿を捉えた。
――随分、距離がある。
というか、1階にいる自分達に対し、彼は3階からこちらへ危害を加えているのだ。使用している得物が弓なのでこの天井が無い回廊はまさに矢を射るのに最適な場所だろう。上手く誘導されたのかもしれない。
そうこうしているうちに、先鋒の六角へ追い付く。
――もちろん、彼の仕事は終わったわけではないので、後玉である南雲達が追い付くなどという事態は本来起きてはいけないのだが。