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ちょっと待て、と数秒前の決意をすっかり忘れた千石は口を挟んで伊織の肩を掴んだ。すでに進軍を開始する気満々の彼女に水を差したようで気が滅入る。
「お前、姉上はあまり戦力にはならないぞ。その編隊はおかしいだろう」
暗に千石か南雲――というか、自分を連れて行けとそう言った千石。え、と何も分からないような顔で伊織が首を傾げた。彼らは肝心なところで意思の疎通が出来なかった。
そんな固まった恋人達を余所に、高千穂が心外だと声を荒げる。
「あたしが戦力外ってどういう事?そんなわけないっしょ」
――煩いので姉上は少し黙っていてください。
そういう意を込めて実の姉を睨み付ければ彼女はすぐに大人しくなった。年功序列などクソくらえである。
「いいか。あっちは六角殿と南雲に任せておけばいい。俺が、お前について行こう」
「弟よ。もれなくあたしもついてくるぞ」
「むしろ姉上はあちらに預けてもいい。荷物というのは本来切り捨てるべきだが、そうも言っていられまい」
おいどつくぞ弟よ、そう言っている高千穂を無視。困ったような顔をした伊織はもう少しで陥落するだろう――
「あ、心配せずとも大丈夫だよ。お姉様がいるから、雲雀殿を向こうで仲間に入れられる。そうしたら戦力は均等だよね」
「む・・・」
「千石様、優しいね。なんか、謀反起こしてからずっと優しいね・・・」
伊織の目は不気味なものを見るようなそれだったが、幸い千石はそれに気付かなかった。何とかして彼女を自分の傍に置いておきたいのだが、それはどうやら叶わないようだ。
「上手くいけば春雨殿も仲間入り、かな。五分五分ってところだけど」
「帰っているのか?春雨殿が?」
「うん。さっき帰ってきたばかりみたい」
間が悪いな、そう考えているうちに伊織が姿を消した。どこへ行ったのかと思えば、六角と何やら話している。その隙に蔑ろにされていた姉が寄って来た。
「本当、千石は伊織様にデレデレだね。ま、可愛い妹の面倒はあたしが見とくから、そっちはそっちで上手くやっててよ」
「・・・言われずとも分かっておりますよ」
「まぁ、神童様が下手打つわけないけどさ」
おどけたようにそう言った高千穂の視線が伊織へと移される。話が終わったらしい彼女は、すでに姉と二人で前線へ行くつもりらしかった。
――正直に、心配であり不安である。