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恐る恐る《最強》と謳われた絶対に開かないはずの城門を潜る。目から鱗とはまさにこのことで、他国の人間が見たら思わず二度見してしまうような光景だろう。こんな簡単に城へ侵入出来るなんて、と。
懐かしの我が家だ、と言いながら伸びをする高千穂を尻目に伊織にこの後はどうするのかと訊いてみる。
「うーん。ここまで攻め込んでるのに、向こうに動く気配が無いんだよね。こっちの反乱に半信半疑、ってところかな。私は先読みが出来るだけで他人の心の内を読む事は出来ないから何とも言えないんだけどね」
「それだけ分かれば十分だ。他に無いのか?」
「他に?・・・って、あ!?」
唐突に驚いたような声を上げて立ち止まる伊織。それに釣られて全員がその足を止めた。集団行動とはかくも恐ろしきものである。
「どーしたんですか、姫様。虫でも飛んできましたか?」
「そんなわけないでしょ馬鹿。えっと・・・これ、ちょっと危ないかもしれない」
やや顔を青くしている伊織は胸の前で手を組んで非常に言いにくそうな顔をしている。異常事態である事は一目瞭然だ。
なるべく彼女を刺激しないように穏やかな声でどうした、と問えば余計に恐がられた。失礼な事この上ない。
「あー・・・なんか、志摩殿が北国に書状送ってる・・・よね。これは」
「えぇっ!?どーするんですかそれ!志摩殿やる気満々じゃないですか!完全にこっちを木端微塵に潰しに来てんですよね、それ!」
腑に落ちねぇな、と六角が難しい顔をする。
「敵か味方か、判断しあぐねている相手に、わざわざ同盟国へ援助要請するもんかね。俺が知ってる限り、同盟国へ助けを求めるのは本当に最終手段なんだが」
「じゃあ六角殿、この頃合いで他に何の書状飛ばすんですか?俺、超不安になってきたんだけど」
動揺する南雲に対し、彼の上司である六角は落ち着いたものだった。さすがは戦国時代を生き抜いてきた武人である。
「まぁ、関係ねぇや!来たら来たで返り討ちにすりゃいいはなしだぜ」
――脳筋なだけだったようだ。
頼もしさはあるが、頼りにはしたくない人間である。
「短期戦で挑むしかないでしょうな、六角殿。援軍がいない今でさえ、力の差がある。その上援軍まで来られてはどうしようもないでしょう」
「それがいいね。書状も気になるけど――うん、長期戦にはならないように考えるよ、私。で、それを踏まえた上で今から二手に分かれるよ」
今の一瞬でそれを決めたのか、あるいは最初からそうすると決めていたのかは大いなる謎だが、ともあれ伊織はすでにこの布陣に対する策を思い描いているようだった。彼女の成長の為にも口を出さず見守る姿勢を取る。
「六角殿を先頭に、千石様と南雲も続いて。私は貴方達の貫通力を信じているからね。お姉さまは私と一緒にお願いします」