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布陣発表、と緊張感も無さそうにそう言った伊織は六角を指さした。
「言うまでもなく一番槍だよ。貴方以外にこの城を蹂躙出来る人物はいないと私は思う」
「へへっ!俺に任せりゃ当然よ」
「任せたよ。あぁそうだ・・・ここまでの配置は完全に悟目殿に見破られているから」
「へー。そーんな事もわかるんですね。俺、未来なんて視えないからどのくらい凄いのか分からないんですけど」
手放しで感心しているらしい南雲に向かって溜息を吐く。彼の武人としての技量は素晴らしいが、そういう阿呆な事を言うような頭の出来には辟易させられる。
「南雲・・・俺は今日、とても親切な気分だから貴様の為に説明してやろう。伊織がやっている事は祈祷師を十人以上集めた上、3時間にも及ぶ儀式の末に得られる成果だ。よって、凄いなどという陳腐な言葉で表せるものではない」
「お前本当に姫様が関わると人が変わるよな・・・素直に婚約者を見くびられるのが嫌って言えよ・・・」
思わず南雲を殴った自分は悪くない。千石はそう自らに言い聞かせた。
話しているうちに裏門へとたどり着いた。人の気配は無い。守る気が無いのだろうか。
「仕方ねぇ。石動殿は姫さんに甘ぇからなあ」
肩を竦めた阿世知六角は仕方無いと言うが、実際問題、仕方が無いでは済まない話である。二世代目である神楽木千石は真剣に国の行く末について悩んだ。
「いやー、六角殿。それにしたって門全開ってのはちょっとありえなくないですかね」
「うちの殿様の考えてる事は、俺らみてぇな無骨な武人には理解できねぇって事だろうぜ」
「えーっと。俺には六角殿がどうしてそうも石動殿を持ち上げようとするのかの方がわからないです」
無駄口を叩くな、と諌めるべく口を開いた千石。そんな彼の言葉を遮ったのは首を傾げた伊織だった。大将であり此度の軍師でもある彼女はとても腑に落ちない、と言いたげな顔をしていた。
「守る気が無いわけじゃないみたいだよ。守ろうとする意志は感じるから。でも、これは・・・精々、親子喧嘩で建築物を破壊されたくないって感じなのかな」
嘗められてるのか油断されてるのかは分からない。それはきっとお父様達も同じだと思う、そう言葉を締め括った伊織は睨むように自宅であるはずの城を見つめる。
まさに下剋上。
この軍に不足しているのは経験だけだ。百戦錬磨の軍である石動の率いる軍に、どれだけの打撃を与えられる事か。
ふん、と千石は鼻を鳴らした。
「油断しているのならば、それは好機だ。動揺している間に城を落とすぞ」
「私はどうして千石様がそこまでノリノリなのか分からないよ」
お父様に会えるのが嬉しいんすよ、と不意に姉が呟いた。何を言っているんだ、と否定しようとした矢先に高千穂はにやにやと笑いながら言葉を紡ぐ。
「日々の鬱憤を晴らす、いい機会ですからね。千石にとっても、もちろん――あたしにとっても。定期的な息抜きって必要っすよ」
息抜きがてら城落とそう、なんていう家臣は嫌だろうな。と、他人事のようにそう思った。