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どんよりと曇り空の会議室。いいからさっさと布陣整えろよ、と心中で毒突いた雲雀の背に何か硬い物が当たった。ぎょっとして振り返る。
――すぐ後ろに戸があったのだが、それを誰かが開けたらしい。
誰だよ声も掛けずに開けやがって、とやはり荒んだ事を考えながらその人物を見る。思わずあ、と声を上げた。
「あ・・・春雨殿!?」
長い髪を一つに結っている、中性的な顔立ち。間違い無く、先程まで遠征に出掛けていたはずの柳場春雨である。
やぁ、と遠慮がちに片手を挙げた雲雀の先輩は首を傾げる。その表情は疲労が色濃く表れており、相当疲れている事だけは容易に理解出来た。
「これは・・・何かあった?僕がいないうちに、問題でも起きたのかな?」
「えぇっとですね・・・春雨殿、今のうちに部屋へ帰って休んだ方がいいですよ。俺、頃合いを見計らって一色殿だか志摩殿だかに貴方が帰って来た事を伝えますから」
「え?」
いまいち要領を得ない説明のせいでその場から動こうとしない春雨。そんな彼が大人連中に見つかるのは自明の理だった。本当は彼を少しでもいいから休憩させてあげたかったが――
「丁度良いところに帰って来たな、春雨!貴様がいなければ六角をどうにも出来んところだったぞ!」
人の悪い笑みを浮かべた一色。これで六角はどうにでもなるな、と安堵の溜息を吐く悟目。すっかり戦の雰囲気に呑まれている石動。三者三様の表情で春雨に詰め寄る。もちろん、何のことだか分からない春雨はひっ、と情けない小さな悲鳴を漏らした。
「兵もある、六角の対策も出来た――ううむ、負ける要素が見当たらなくなってきたな。伊織め、この状況をどうするつもりだ?春雨が帰って来るとは考えなかったのか?」
「知りませんな。ですが、勝ちは確定かと。あとは、どうやって姫様を納得させるか、ですな」
――嗚呼、嫌な予感がする。
形の無い悪寒に雲雀は小さく頭を振った。