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雲雀、と名を呼ばれ振り返る。上司の更科志摩が気難しい顔をして溜息を吐いていた。
「どうされました?」
「――同盟国に援助要請を出したい」
小さな小さな声で言われ、一瞬言葉に詰まる。
志摩が周りを気にしながらそう言うのは、石動がその動きを知れば全力で止めに掛かって来る事は間違い無いからだ。
「あの、そんなに大事だとは・・・思えないのですが・・・」
「念には念を、だ。石動様はあまりにも太平楽過ぎる」
「そうですね」
反乱ごっこと言うには、伊織軍の顔揃えは本気過ぎる。あれだけ人が集まれば小さな反乱ぐらいならあっさり止めてしまう事だろう。そんな少数精鋭部隊を前に君主のやる気の無さは少々目に余る。
志摩が懸念するのはもっともだ。現在、一番効果的な判断を下せる人間が少ない。一色も大分頭に血が上っているし、悟目はいまだ伊織の勧誘云々の問題を引き摺っている。
「書状は俺が書きますか?それとも、志摩殿が?」
「俺が書こう。その間、軍議を見ていてくれ。後で報告を聞く」
「承知致しました」
くれぐれも、と念を押すように志摩の手が右肩に置かれる。疲れ切っているのか、顔には濃い疲労の色が見え隠れしていた。
「悟目さんには絶対に悟られないよう注意してくれ。あの人、本当に反乱起こしかねないからな」
「そ、そうですね・・・」
情緒不安定な軍師を一瞥。どうやらブツブツと一色へ呪いの言葉を吐き出している最中らしい。彼は最近どんどん戦国の暗黒面へ堕ちて行ってるようだ。