5.





 一体、今の志水の説得に何の力があったのかは分からない。分からないが、ともあれ伊織は何らかの力を得たらしく、輝いた瞳でその小さな拳を握りしめた。事情を知りさえしなければ微笑ましい妹の旅立ちに見えなくも無い。

「お義母様・・・私、やります!」
「えぇえぇ。その意気ですよぅ、伊織ちゃん。貴方ならきっと出来るわぁ」

 ばん、と伊織が机を叩く。まるで水を得た魚のようだ。
 そんな彼女はようやく軍師としての役目を真っ当し始める。不敵に嗤うその姿は父親である石動を連想させるが、それを言ったら首が飛びそうなので自粛。

「火計と水攻め、どちらにしようかな」
「あんた自分の家ですよ姫様!?」
「最近、火攻めを先生から教わったの。丁度良い機会じゃない?」
「あー、落ち着いてくださいって!城燃やしたら困るのは姫様でしょう!?」

 勢いをつけすぎた感が否めない。やんややんや、と大騒ぎの仲間達に彼女の横行を止めるつもりは無いようだった。とんだ暴君である。だがそういえば、六角から聞いたところによると石動もすぐ建築物に火を着けたがる男だったらしい。
 火計なんてまず間違い無く予想していないであろう土御門悟目に火攻めなんてしてみろ。首吊ってもおかしくない。

「あの・・・志水殿も来ますか?」

 そこでふと思い出したように伊織が志水へ話を振った。が、ここで蒼い顔をしてそれを止めに入った男がいる。

「――い、伊織。母上は戦場へ出た事が無い。それは、無理だと思うが・・・」
「あら、千石。母は大丈夫よ?頼もしい息子が護ってくれるはずだわぁ」
「え。いや、戯れ言も大概にしてください、母上」
「あらあら。まぁいいわ。伊織ちゃんの足を引っ張るわけにはいかないものね。私は、辞退するわぁ」

 代わり、名乗りを上げたのは言わずともがな、高千穂であった。彼女は母と違い、れっきとした武人である。

「あたしはお供しますよ、姫様。雲雀殿も向こうにいるみたいすから」
「お姉様。私も、今お姉様をお誘いしたかったところです。貴方がいなければ、雲雀殿を引き抜く事が出来ませんから」

 どうやら火計の話は流れたらしい。しかし、六角が背後で松明の準備をしていたので南雲はそれを慌てて止めた。