5.





 盗んだ邸で呑気にお茶をしながら軍議をする伊織軍はというと、最初からいた面子に加えて、神楽木志水と高千穂が加わっていた。志水は「お客様にお茶を出していなかったわぁ」などと言ってどこからか帰って来たのだが、高千穂が考えている事だけはよく分からない。
 軍備体勢が着々と整っていくのを、洞門南雲はぼんやりと眺めていた。
 肝心要の策が何一つ決まっていない事だけが今の憂いである。

「――あー、姫様。で、結局どーするんです?このまま軍議だけやってても意味ないでしょ」

 煮え切らない様子の伊織にそう言ってみる。軍議に参加してるのは一番槍として確定している阿世知六角と兵法について多少学のある神楽木千石だ。彼の姉はというと、旦那は敵軍だというのに呑気にその様を見ている。
 ――しかし、参加していなかった南雲が唐突に口を挟んだ事で侮蔑と軽蔑の目を千石から向けられる事となる。

「ふん、これだから貴様は・・・。向こうに動く気が無いのだ。こちらもそう易々と動くわけにはいくまい。野次を飛ばすだけならば黙っていてもらいたいものだな」
「わ、わーるかったって!ンな怒るなよ・・・」

 神童の本気な感じの怒りに慌てて謝る。彼は伊織が絡むと恐いので取り扱いに細心の注意が必要だ。

「動くどこか迎撃態勢を布いてる気配も無いなぁ」
「じゃあどうする?俺達も向こうの準備が整うまで待つのか?」
「うーん、六角殿の負担を考えたら、いっそ奇襲を仕掛けた方が良いかも・・・」

 ――やはり軍師見習いは所詮見習いである。
 要塞図と計画図。それらを持っていながら、圧倒的な経験不足でそれを精一杯扱いきれない。それが伊織の現状。ここに土御門悟目がいれば彼女の情報を元に、素晴らしい、それこそ必勝の策を思いついてくれるのだろう。
 今ここにはいない、負け知らずの軍師を思い浮かべて南雲は心中で溜息を吐く。そういえば、伊織はこの軍に『二世代目』ばかりを集めているようだが、悟目には声を掛けたのだろうか。
 ふと疑問に思ったものの、真剣な顔で卓を囲んでいる三人を見れば声を掛けるのさえ憚られ、自粛する事にした。